keep it up! 番外編 親切の行方



02




「うお?」
「きゃあ!!」

咄嗟に彼は片手を床に着いて片手で私の倒れ込んだ腕を掴んで
倒れるのを堪えてくれた。

私は勢いのまま彼の胸に飛び込む形で倒れ込んだ。

「ひょえーーなんだなんだ!?」
「女の子が飛び込んで来たじゃん」
「流石フェロモン男!座ってるだけで女惹き寄せたか?」
「うおーー!!シャッターチャンス!!」

「バ……バカ言ってんじゃねーっての!オイあんた大丈夫か?」
「…………」
「オイ?」

今の私には周りの声なんて何も入ってこなくて……だってこんなに近くで彼の顔が見れるなんて……
それに倒れ込んだ拍子に着いた手のひらから彼の胸板の感触が伝わってくる。

引き締まってて……逞しい身体だってわかる。

「あ……あらーー!ちょっと潤子大丈夫?すみません〜〜酔っちゃったのかしら?」

そう言って優菜に背中をバシバシと叩かれてハッと我に返った。

「わあっ!!ご……ごめんなさい!!私……」

やっと今自分がどんな状況なのか理解して彼から身体を離した。

「大丈夫だったお嬢さん?妊娠してない?」
「は?」

彼の肩越しに隣に座ってる男の人が私を覗き込んでそんなことを言う。

「オイ!変なこと言ってんじゃ……」
「コイツちょっと前まで女なら誰でもOKだったからさぁ〜そんなにくっついてると危ないよ〜」
「だから黙れっての!誤解されんだろうが!!」
「久しく遊んでないから溜まってんじゃないの?隼斗君〜〜」

他の人達まで悪乗りで色んなことを言い出してくる。
女なら誰でもOK?ホントに??

「コイツ等の言うことなんて本気にしなくてイイから……って……あれ?あんた……」

彼が私の顔をマジマジと見て……どうやら気づいてくれたらしい。

「あ……あの!あのときは本当にありがとうございました!!」
「いや……」
「え?なに?隼斗知り合い?」
「知り合いっつーか……前この子の車のパンクしたタイヤを取り替えたんだ」
「ほーーまあお前の得意分野だかんな」

彼の隣に座ってた人が彼の肩に腕と身体を乗せてこっちをのぞき込みながらニコニコ笑ってる。

「え?」
「コイツの仕事って車の整備だからさ。タイヤ交換なんてお手のもんなんだよ」
「そ……そうなんですか?」
「だから気にすんなって言っただろ」
「はあ……」

だからあんなにも簡単に手際良くタイヤ交換できたんだ。

「で?それを盾に関係でも迫ったか?隼斗」

「!!」

彼の友達らしき人にそんなことを言われて思わずドキンと心臓が跳ねた。

「な!?バ……バカか?お前!!んなことするわけねえだろ!!」
「え〜〜どうかな〜〜?昔のクセがでたんじゃねぇの?」
「お前等なぁーーー今日は何のために集まったんだよ!!俺の結婚を祝ってくれるためじゃねーのかよっ!!」

「!!」

結婚?

「そうだけどよ〜〜お前が大人しく嫁さん一人で満足するのかな〜〜ってさ」
「してるってのっ!!ふざけんな!」

「…………」

結婚……してるのか……だよね……こんなかっこいいんだもん。
それに……頼りがいがあるって言うか……うん……いい旦那さんになりそうだもの。

「お前らいい加減にしねえと俺帰んぞ」
「アハハ♪ 冗談だって隼斗〜〜わかってるって。お前が今どんだけ幸せかってよ〜〜」

言いながら友達にバシバシと背中を叩かれまくってる彼。
そっか……新婚さんなのか……なんだ……あっという間に失恋?

「でもさぁ〜スッゴイ偶然だよね?そんな知り合いがこんな居酒屋のしかも隣同士で座るなんてさ〜〜」
「ホント。コレも何かの縁だし今日はお祝いゴトだから一緒に飲まない?ね?他の彼女さん達もさ」
「オレ達4人はひとりもんだから良かったらこれを機にお友達っていうのもありだしさ」

彼のテーブルには6人の男の人が座ってた。
ということは独身者4人既婚者2人……こっちは独身女4人。
チラリと他の3人に視線を送ると優菜達もお互いに視線を合わせて頷いてる。

「じゃあお言葉に甘えてご一緒させていただきますねぇ♪」

優菜が私達を代表してニッコリ笑顔で返事をした。
その後どうせならとテーブルをくっつけて席まで移動して飲むことになった。
席を移動するときに優菜がこそっと私に耳打ちする。

『結婚してるらしいけどもとは遊び人らしいしさ。ちょっと誘ってみたら?』
『な……何言ってるのよ!そんなこと……』
『だって新婚みたいなのに指輪してないんだよ?それってそういうことじゃないの?』
『え?』

言われて見てみれば……本当だ。
彼の左手の薬指に指輪がなかった。

『いいじゃんご飯食べるだけだって。そう誘ってお酒でも飲めばけっこうコロッといっちゃうかもよ』
『なに言って……』
『奥さんいるなら後くされなくていいじゃない。まずは食事よ食事!それくらいならってOKしてくれるかもよ』
『そんなことないってば』
『いいから言ってみるだけ言ってみなよ。じゃあね♪』

そう言って私の肩をポンと叩くと優菜は私とはテーブルを挟んで反対側の席に座った。
もう……優菜ってば……

チラリと隣を見ると彼は友達と楽しそうに笑ってた。
そんな横顔が男らしいなぁ……なんて思ってしまったけど……

そうよ!彼は結婚してるの!妻帯者なのよ!よそ様の旦那さんなのよ!!しっかりしなさいよーー!潤子!!

ひとり心の中でそんなことを考えていつもよりも早いペースでお酒を空けていった。





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