keep it up!



03




「…………ぐうぅ」

千夏が出張に行ったその日の夜、俺は携帯を前に唸り声を上げる。

「なんで連絡よこさねえんだよ!」

俺の携帯は朝からウンともスンとも言わない。
電源が切れてるワケでも、電池がないわけでもない。
ただ単に、誰からもなんの音沙汰もないだけだ。

「千夏ぅ〜〜一度くらい連絡してきたっていいだろうがーー!!」

自分から連絡をしないのを棚に上げ、まったく連絡してこない千夏に腹を立ててる俺。
風呂に入ってるときも、飯を食ってるときも、部屋に戻ったあとも片時も自分の傍から携帯を離してないってのに……
なんで千夏からなにも言ってこない?

「ハッ! まさか!」

柚月先輩と二人っきりで羽目を外してるんじゃないだろうな?

「イヤイヤイイヤ! あの二人がそんなことするわけがねえだろう? それに仕事で行ってるんだし」

馬鹿げているとは思っても、ついあり得もしないことを考える。

「はあ〜〜〜! くっそ!」

変な意地はってないで、やっぱ自分から連絡を入れたほうがいいのか?
だが、俺から連絡したって千夏が素直に話すとは限らないしな。
鳩尾辺りがモヤモヤする。
こんな気持ちは久しぶりだ。
高校のころ、傍にいるのに千夏に手が出せなかったあのころを思い出す。
あのころは“コレ”と違ったモヤモヤが毎日のように鳩尾辺りにあった。
イライラもあったから、今のほうがまだマシなのか?
時間はもう21時を過ぎてる。
いくらなんでも、もう仕事も終わっただろう?

「…………よし!」

俺は意を決して千夏の携帯に電話をかけた。




「クソッ! こんな時間までなにしてやがんだよ!」

何度もかけたのに、千夏は携帯に出なかった。
出ない理由がわからずイライラする。
俺からの電話だとわかってて出ないのか、今は出れない状況なのか、ただ単に気づいてないのか?
わからん!

「はあ〜」

仕方なく柚月先輩の携帯のナンバーを出す。
出てくれても、なんて切り出せばいいのか?

「ったく、なんでこんな苦労を……」

何度目かのコールで柚月先輩が電話に出た。

『隼人?』
「お疲れ様です、柚月先輩」
『おう、お疲れ。どうした?』
「いえ、千夏のところにもかけたんですけど、アイツ出なくて」
『え? あーちょっとバタバタしてたから、電話かかってきてんの気づいてないのかもな』
「そうですか……」
『なんだ? 嫁さんに用か?』
「いや……そんな別に大したことじゃ……」
『そうか? ならあとでお前に電話するように伝えといてやるよ』
「はあ……そうしてもらえると……」

って、かかってきて話せるのか? 俺?

『ただ、もうちょっと時間がかかるかもしれんけどな』
「それは大丈夫なんで」
『そっか』
『柚月先輩〜〜』
「!!」

今のは、千夏の声じゃねえか?

『先に部屋に行っちゃいますよ〜』

はあ!? 先に部屋にだと?
どこの誰の部屋だ!

『わかった、今行く。先に部屋で待ってってくれ』
『わかりました〜』
「…………」

部屋で……待っててくれ、だと?
柚月先輩の部屋で千夏が待ってるのか?

『じゃあ、悪いな隼人』
「え!?」

悪い?
悪いって、なにが誰に悪いんだよ?

『電話のことは伝えておくから』
「はあ……」
『切るぞ、じゃあな』
「あ! 柚月先輩!」
『ガチャ☆ ──── ツーツー』
「…………」

なんなんだ?
今のは一体なんだったんだ?
浮気? 浮気なのか?
二人して、同じ部屋に泊るのか?
マジか?
いや、ウソだろう?
千夏が……柚月先輩が、浮気なんてするはずが……でも……あの『悪い』っていうのは……

なんだったんだーーーーー!!
 





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