ひだりの彼氏 別話編 高校生のツバサと奈々実 1



03




「ねえ城田さん今朝のことはどういうことなの?」

「え?」


昼休み……お弁当を食べ終わって友達と話してたら見知らぬ女子が3人私の横に立った。
そして1時間目の休み時間から何度となく聞かれる同じ質問を投げかけられる。

上履きの色で彼女達は3年生だとわかる。
いつの間に私の名前やら学年やら調べたんだろう……ちょっと怖いんですけど。

「どういうことって言われても……」

私だってわかりません!と言うしかない。

「三宅君と付き合ってるの?」
「付き合ってませんけど」
「じゃあなんで朝一緒に登校したわけ?彼が女の子と一緒に歩くなんてありえないことなのよ!
しかもあなた彼と手を繋いでたでしょ?ちゃんと見てたんだから!」
「…………」

って言われても手を繋いで離さなかったのは彼のほうなんですけど。

そう……彼はあのあと駅から2年の廊下まで繋いだ手を離さなかった。
だから擦れ違う人擦れ違う人驚いた顔で私達のことを見てたから私はどうにか
彼の手を離すことが出来ないかと抵抗したんだけど結局は教室の近くまで手を繋いだままだった。

どうやら駅のホームでの……キ……キスは見られてなかったみたいだけど。
あれを見られてたら……恥ずかしくてもう学校これない。

「私も彼とまともに話したの今日が初めてなんです。だから私にもどうしてかなんてわかりません」

そんな男に私のファースト・キスが……ううっ!!

「そんなはずないでしょ!どうやって彼の機嫌とったのよ!」
「それとも何か彼の弱みでも握ったの?」
「大体今まであんた彼の周りにいなかったでしょ!それが!」

段々と殺気立ってきて座ってる私を見下ろしながら詰め寄ってくる。
ちょっ……ちょっと……お姉様達落ち着きなさいよ。
一緒にお昼を食べてた友達もあっけに取られて私に詰め寄ってくるお姉様達を見上げてる。

「どいて」

「「「「「 !!! 」」」」」

その場にいた全員がその声に振り向いた。
そこには今まさに話題の中心人物の彼が立ってた。
お姉様達がこっちに歩いてくる彼を中心にさっと割れた。素早っ!

「…………」

私は訳がわからなくてちょっとしたパニックになってる。
なんで?どうして??なんで彼が今ここに?目の前にいるの?クラスちがったよね?

「もうお昼ご飯食べた」
「え?」
「食べたよね」
「……うん」
「そう」
「え!?あっ!ちょっ……」

彼が私の手首を掴むとグイッと引っ張ってイスから立たせられた。
そのまま引っ張られて教室から連れ出そうとする。

「え?なに?どこに行くの?」
「いいから来て」
「でも……」

もう訳がわからん!!しかもこのタイミングって……空気読め!空気!!このKY男!!

「三宅君!」
「………」

かなり大きな声が教室に響いた。
彼は立ち止まって声のほうに振り向いた。

「その子と……付き合ってるの?」

さすがに私に詰め寄ったときとは違う落ち着いた言葉で話しかけてた。

「さあ」
「!!」

ちょっと!さあってなに?さあって!!
ハッキリあなたの口から言ってやってよね!付き合ってなんていないって!!

「付き合ってないから!!誤解しないでください!!」

こうなったら自分で言うしかない!
言葉の前半を彼に向かって後半をお姉様達に向かって叫んだ。

「たしかに付き合ってはいないかも」
「かもじゃなくて付き合ってないでしょ!」

ホントふざけないでよ!!

「関係ないし」
「なにが?なにが関係ないの?」
「いいから。行くよ」
「ちょっと……どこに??」
「来て」
「あ!」

結局彼に手首をつかまれたままグイグイと引っ張られて教室から連れ出された。

上級生のお姉様達はなにか納得いかない顔で立ち尽くしてた。
視線を下げると机の上のお弁当箱を握り締めてる友達と目が合った。
縋るように見つめたのにアッサリと手を振られた。
”ご愁傷様”と唇だけが動いてるのを私は見逃さなかった。

この……薄情もーーーーん!!


「ちょっと!どこまで行く気?」
「…………」

そんな私の問い掛けにもまるで答えようとしない彼。
お昼休みだったから廊下で何人かの生徒にまた目撃されてしまった。
彼と手を繋いで歩いてるところを……もう勘弁して!!

女子の驚いた顔と視線と嫉妬絡みの鋭い視線で居たたまれない。
彼に隠れファンがたくさんいたのは事実だったのね。

廊下を歩いて階段にさしかかると彼は階段を降りずに上り始めた。
このまま上に行けば屋上しかない。
彼は屋上に行く気なのか……なんで?

そんな疑問はすぐに解消された。

ドバン!と屋上に繋がるドアを勢いよく開けた彼は迷うことなく歩き続ける。

屋上にはすでに何人か人がいた。
読書してる人友達と話しこんでる人……あとはカップルが数組。

ここの屋上はフェンスで周りを囲まれてるけどその下は人が腰掛けられるように
ベンチが多く置かれてる。
背凭れはないけど木目の座面で座り心地は悪くない。
そこに手首をグンと引っ張られて連れて来られた。

まあこれだけ他に人がいるんだから変なことはされないだろうと思った。

「座って」
「…………」

仕方なく言われたとおりにベンチに腰を下す。

「本当になに?何か話しでも……」

言ってる途中で彼が隣に座るとクルンと私に背を向けた。

「?」

なにしてるの?この人??
なんて思ってたらそのまま彼が私のほうに倒れこんできた!

「えっ!?なっ……!!」

慌ててる私にお構いなしに彼はそのまま倒れ込んできた。
そして狙ったように私の膝の上に彼の頭が納まった。

「予鈴が鳴ったら起こして」
「はあ??」

彼の行動の素早さと当たり前のように言う言葉にビックリするやら呆れるやら。

「ちょっと!いきなりなにするのよ!!どいて!!起きてよ!!」
「眠い」
「そんなこと知らないってば!いいから早くどいて!!」

そんな会話をしながら彼の頭を両手で押した。
サラサラの髪の毛をぐしゃりと鷲掴む。

「やだ」
「ちょっと!」

そんな私に対抗してか彼は私のほうに横向きになると上になってる腕を
私の腰に回して 抱きついてきた。

「セ……セクハラ!!」
「騒ぐと目立つよ」
「へ?……あっ!」

周りを見れば近くにいた生徒達がじっとこっちを見てる。
私は真っ赤になって俯いてしまった。
両手は彼の髪の毛を鷲掴んだまま……この男はぁ〜〜〜〜!!

「くぅ……」
「なっ!?」

寝た??この状況で??……寝れるもんなのぉ!!寝付くの早すぎでしょ!!

「…………」

しっかりと人の腰に腕を回したまま熟睡してるワケのわからない男の顔を見下ろした。
朝の電車のときと同じように気持ち良さそうに眠ってる。

「はぁ〜〜まったく……」

ぐしゃぐしゃになった彼の髪の毛を撫でつけて整える。
サラサラなのが癪に障るけどそのまま頭に手を置いて背中にあるフェンスの金網に寄りかかった。
昨夜徹夜でもしたのかな?そんなふうには見ないけど。
ああ……どうやらこれって彼のペースなんじゃないかしら?
なんて思ってそれに流されてる自分が悲しい。

「今日だけだから。感謝しなさいよね」
「……すぅ……」

私の呟きは寝てる彼に届いてないのはわかってた。
でも言わずにはいられない。

「ん……」

彼がベンチの上で器用に身体を丸めて私の膝に顔を摺り寄せた。
いやらしさは感じなかったからそのままにさせておいた。
日差しが温かいとはいっても寝てると肌寒かったりするかもしれない。
でもだからって掛けるモノなんて何もないし……

って!どれだけ人がいいんだろう?私?
なんて自分に呆れつつ……昼休みが終わるまでの残り時間約15分。

「暇だ〜〜」

どうせなら小説の続き読みたかったなぁ……なんてひとり愚痴ってしまった。





Back  Next



  拍手お返事はblogにて…