ひだりの彼氏 別話編 高校生のツバサと奈々実 1



04




「お……て……」
「…………」
「ねえ……きて……」
「ん?」
「ねえ起きて!時間!」
「……ん……」

ユサユサと身体を揺すられて目が覚めた。

「…………」
「ちゃんと起きてよ」
「?」

オレどうしてたんだっけ?とんでもなく気持ちよく眠ってた気がする。

「あ」

見上げた先に女子の顔。
でも見覚えのある顔だ。

「予鈴鳴ったわよ」
「奈々実さん?」

なんで奈々実さんがオレを見下ろしてる?

「まだ寝ぼけてる?早く膝からどいてほしんだけど?」
「膝?」

なんで膝?

「……ああ」

思い出した。
奈々実さんの膝枕で寝てたんだ……オレ。
やっぱり想像したとおり寝心地抜群だった。


仕方なくゆっくりとベンチに両手をついて起き上がる。

「どかさなかったんだ」

手を着いたまま肩越しに奈々実さんを振り返った。

「きょ……今日は特別だから!!」
「なんで」
「な……なんでって……いいでしょ別に!あなたにとってはラッキーだったんだから。でももうこの次は……わっ!」

文句を言ってる途中で彼がベンチに座ったままクルンと私に振り向いた。
そのまま抱きしめられて肩に彼の顎が乗る。

「ちょっ……!!」

いきなりでこんなこと初めてで心臓がバクバク凄いことになってた。
抱き着いてる彼を振りほどこうとしたけど腕ごとがっちりと抱きしめられてて無理だった。

「本当なんなんだろう」

そんな私にお構いなしに彼は落ち着き払った態度と声だ。

「ちょっとヤダ……はなして!!」
「どうして」
「ひゃっ!!」

首に息がかかってビクンと身体が跳ねた。
近すぎるってば!!

「だからなんでだと思う」
「もう……そこで喋らないで!」
「なんでなんだろう」
「な……なにが?」
「奈々実さんが傍にいるとぐっすり眠れるワケ」
「はあ?し……知らないわよそんなこと!!いいからはなしてよ!授業が始まっちゃうじゃない」
「…………」
「三宅くん?」
「ツバサ」
「ひゃう!」

耳に直接囁かれた!
と同時にゾワリと背中になにかが走った。

「なっ!?」

ちょっと!他の生徒に見られたらまた色々言われちゃうじゃない!
最初に屋上に来たときに自分達以外の生徒がいたから
気になって目だけで周りを見たらもう屋上には誰もいなかった。
ウソ……私達ふたりっきり!?いつの間に!!

そう思うと今度は変な緊張とドキドキが始まる。
みんな戻るの早すぎるって!!

「み・や・け・く・ん!どいて!!」
「ツバサ」
「……っ」

また耳に直接囁かれた。
しかも唇が耳たぶを掠ったよね?

「も……もう!大きな声出すわよ!」
「あ!わかった」

私の言葉はまったくのスルー!?

「奈々実さんはオレ専用の枕なのか」
「は?」
「ああ納得」
「勝手に納得しないでよ!」
「そうか」
「ふぁ!!あっ……」

勝手に変な声が出た。
だって……

「オレだけのもの」
「なに言って……やめてって……はなれて……お願い」

彼の唇が首に触れてる。
さっき変な声が出たのは彼が私の首に唇を押し付けてペロリと舌で舐めたから。

「授業が……」
「真面目だね。奈々実さん」

そう言ってやっと私からはなれた。
身体を抱きしめてた腕もそっと外された。

「あなたなに?なんでこんなことするの?」
「なんで?朝言った」
「は?」

私としてはキッと睨んだつもりなのに、彼は気付かずにそんなコトを言った。

朝?彼朝になんか言ったっけ?

「記憶力ないの」
「!!」

なに?そのあからさまに呆れた声は!!

「“今日からずっとオレの傍にいて”って言った」

「え?」

そんなコト言われたの?

「“いつもオレの傍にいてオレをホッとさせて”とも言った」

「……ウソ?」
「本当。約束した」
「約束した?私が?」

したっけ?そんな約束?

「そう。“絶対破れない約束”って念を押した」
「ええっ!?ウソよ!」

言われてる意味が分かってなさそうだったけどまさかここまでスルーされるとはね。

「約束したんだよ奈々実さん。今さら無効にはできない」
「なんで?」
「もう決まったことだから」
「勝手にあなたが決めただけでしょ!!」
「ちゃんと約束のキスもした」
「!!」
「それは覚えてた」
「あ……あれこそあなたが勝手に……あ!!」

彼がいきなり両手で私の頬をがっしり挟んだ。
いやーーーー!!な……なにするの??

「ならもう一回。今度は忘れないで」

「え?」

ぎゅっと両手に力を込めながら奈々実さんに近づいていく。
それに気付いて奈々実さんの身体が後ろに少し引いた。

「逃げない」

「……は……」

奈々実さんの身体がビクリとして動きが止まった。
戸惑うように漏らした息がオレの唇にかかる。

「ん!」
「ちゅっ」

最初は触れるだけのキス。
でもすぐに奈々実さんを求めるキスをする。

「やっ!!」
「逃げない」

雰囲気の変わったオレに気付いた奈々実さんが逃げようとするから
先にクギをさした。

「やめて……」
「やめない。あきらめて」
「んんっ!!」

触れた奈々実さんの唇は震えてたけど構わず舌を滑り込ませた。
奈々実さんの身体も震えてたけどそれは頬から離した片手で抱きしめた。

人のいい奈々実さん。
そんなに嫌ならオレの舌を噛めばいいのに。

「………ぅ……」
「…………」

しばらくして静かに唇をはなすと奈々実さんの潤んだ瞳が目の前にあって
涙が一滴今にも零れそうだった。
だからオレは唇でその雫を受け止めた。

「約束……破らないで」
「…………」

オデコ同士をくっ付けて奈々実さんと近い距離で視線を合わせたあと立ち上がる。

「行こう。授業始まる」
「…………」

座ってる奈々実さんの手をとって引っ張ると誰もいない屋上を後にした。

「帰り一緒に帰るから待ってて」
「今日は委員会だから無理」

階段を下りながら掛けた言葉はあっけなくかわされてしまった。

「もしかして図書委員」
「だったらなに?」
「いかにもだから」
「悪かったわね」
「別に」


予鈴が鳴ってから結構な時間が経ってたと思ったのに
教室に入る直前で午後の授業が始まるチャイムが鳴った。





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