ひだりの彼氏 別話編 高校生のツバサと奈々実 1



06




「お疲れ様〜〜」
「お先!」

もっと長引くかと思った委員会は連絡事項と今月の当番の話で思ったより早く終わった。

ガタガタとイスを戻す音がしてみんな早々に図書室を後にする。

「じゃあ細野最後にここの戸締りよろしく頼むぞ」
「はい。わかりました」

図書委員の担当の月館先生が3年で委員長の細野先輩に声を掛けて出て行った。

「城田さんお疲れ」
「いえ。私はなにも」

ずっと色々説明や話をしてたのは委員長の彼だ。
私はそんな彼の話に他の人と同じに頷いたりしてただけでなにもしてない。
だから謙遜したわけじゃなかった。

細野先輩はちょっと癖のある髪の毛で軽くウェーブがかかってる。
話しやすくて2年になって初めて委員になった私にも気さくに話しかけてくれる。

「副委員長の代わりに細かい雑用こなしてくれたじゃない。助かったよ」
「そうですか?ただ先に来てカーテン開けたりプリント配ったりしただけですよ」
「それでも助かった。ありがとう」
「…………」

同じ2年の副委員長をしてる国立さん(女子)が今日はどうしても委員会に出席できないからって
私に委員長の手伝いをしてほしいと頼まれてた。
国立さんとは1年のとき同じクラスになって本を通して話すようになった。
本当に大したことやってなかったのにそんなふうに感謝されて仕方なく曖昧に笑っておいた。

さて……どうしようと一瞬悩む。
彼に委員会が終わったら連絡をしろと言われてるんだけど……

なんで私が彼に連絡をしなければいけないのだろうかと疑問に思う。
悩むというよりも拒否をしたい。

黙って帰ってしまおうか?なんて気持ちもなくもない。
だって……一緒になんて帰ったらまた周りにどんなこと言われるかわからないし
彼のペースに流されてなにされるかわからないし……

今日一日でファースト・キスもセカンド・キスも奪われてしまったことを5時間目の授業中に気付いた。
信じられない!!あの男!!!

なんだけど……彼と一緒にいると必ず彼のペースに巻き込まれちゃうのよね。
なんで彼のことを拒絶しないのか?それも自分で不思議に思うこと。

「みんな帰ったみたいだね。城田さん悪いけどカーテン閉めてくれるかな?」
「あ……はい」

入り口の方で細野先輩の声がして私は手に持ってた携帯を制服のポケットにしまった。
そして奥の窓からカーテンを閉め始めた。
一応国立さんに代役を頼まれてたから最後まで手伝いはしようと思ってたから。

半分ほどカーテンを閉めたころ背中に気配を感じて振り向こうとしたら
背中越しに伸びてきた手で口を塞がれた。
お腹には腕が回されてそのまま後ろ向きで引きずられる。

「!!!」

今にも転びそうな後ろ向きの歩き方でよろめく身体をしっかりと抱きかかえられて
奥の本棚のほうに連れて行かれる。

え!?なに??なにがどうなってるの??誰?誰がこんな……細野先輩は?

いきなりのことと口を塞がれたことでパニックになってもうわけがわからなくなってた。
口を塞ぐ手と身体に回された腕を引き離そうと掴んだり叩いたりしたけどビクともしない。

「ううーーーー!!!ううっっ!!!」

身体も捻ったりしたけど全然ダメだった。
ホントなに??どういうこと??

「やっとふたりっきりになれた。城田さん……いや奈々実ちゃん」
「ふぅ??」

後から耳に直接囁かれた声は聞き覚えのある声!
細野先輩!?うそ!!
顔をちょっと動かすと視界に入ってきたのは紛れもない細野先輩だった。

「…………」
「同じ委員になって初めて奈々実ちゃんを見たときからずっと君のこと好きだったんだ」

「……ぅ……」

え?好き?先輩が??私を??委員会以外で殆んど話したことがないのに?
スリスリと首筋に先輩の頬を擦りつけられてゾワゾワと身体に鳥肌が立つ。

「男慣れしてなくて控え目で笑顔がかわいくて……身体だってこんなに柔らかい」
「!!」

身体に回されてた腕がスルスルと制服の表面を滑って胸で止まる。

「ううっっ!!!ふうーーーーー!!!」

やだーーーー!!なにこの人!!触んないで!!き……気持ち悪い!!

「感じちゃう?ごめん我慢出来なくてさ……
この前も押さえ切れなくてつい電車の中で奈々実ちゃんの身体触っちゃったんだ」

「!?」

この前の電車の中でのチカン!?あれって先輩だったの?

「ホント失敗だったよ。一度でやめておけばよかった。奈々実ちゃんすぐ他の車両に移っちゃったから」
「…………」

あ……当たり前でしょう!!
でも……本当に?先輩が?あの時のチカンで今もこんなことしてるの?
そんなことするような人には見えなかったのに……でも目の前で起きてることは紛れもない現実で……

「しかも今日なんてあんな奴と一緒に登校してくるし。手なんか繋いじゃってさ……
俺がどれだけ嫉妬してたかわかる?」
「…………」

そんなの知らないって!!あの男が勝手に……ってやっぱりあの男は私にとって疫病神よーーーー!!

「このままじゃアイツに奈々実ちゃんを取られちゃうと思ってどうしようかと悩んでたら
国立さんが委員会休みでその代わり奈々実ちゃんが彼女の代わりを務めてくれるなんてさ。
だからこれはチャンスだと思ってこんな強硬手段に出たわけ」

ずっと話しながら先輩の顔は私の首に密着してて胸にある手もそのまま動かない。
先輩が話すたびに生暖かい息が首にかかって鳥肌が止まらない。

「奈々実ちゃん……好きだよ」
「!!」

口を塞いでた手が顎にかかって無理矢理顔を先輩のほうに向けられた。
こっ……これって!!



「?」

図書室に着いて入り口の引き戸に手をかけるとカギが掛かってて開かなかった。
もうひとつの入り口も同じでカギがかかってる。
委員会は終わってるらしく引き戸の小さなガラス窓から中を見ると誰もいない。
誰もいないけど……2つのカバンが長テーブルの上に置いてあるのが見えた。
だからまだ中に残ってる奴がいるってこと。
なのにカギがかってるってことは誰にも邪魔されずにやりたいコトがあるってこと。

あのカバンが奈々実さんのなのかオレにはわからないけど確かめる方法はある。
奈々実さんが携帯の電源を切ってなければだけど。

オレはメールの作成画面を開いて『迎えにきた』と書いて送信した。


「ちょっ……やめてっ!!」
「奈々実ちゃん……」

強引に顎を掴んで自分のほうに私の顔を持って行こうとするのに抵抗してなるべく下を向いて逃れた。
それでも先輩は手をはなそうとせず一緒になって下を向いて顔を近づけてくる。
もーーー!!しつこい!!それにホント気持ち悪い!!

先輩は背も高いしそれなりに整った顔だと思う。
太ってもいないし女子からの評判もそれなりで悪い噂は聞いたことはない。

でもだから顔がどうのとか体型がどうのとか私にとって今そういうのは問題じゃなくて
この人の全部が無理!!



図書室の入り口の前で奈々実さんにメールを送信するとホンの数秒で中から音楽が聞えて来た。
微かではあるけど間違いない。

奈々実さんの着信の音楽が何かなんて知らないけど迷いはなかった。

「ビンゴ」

オレはそう呟いて自分の携帯をズボンのポケットにしまうと図書室のドアに向かって思い切り蹴りを叩き込んだ。





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