ひだりの彼氏 別話編 高校生のツバサと奈々実 1



07




“ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ”

「な……なんだ?」
「!!」

この音は私のメール受信音でしかも多分音量がMAX。
音の発信元は私の制服のポケットからだった。

「なんでこんなデカイ音?」
「あ!」

先輩がポケットから私の携帯を取り出して電源を切った。

「いいところで邪魔しやがって」

そう文句を言うと私の携帯を床に放り投げた。

「ちょっ!!」

人の携帯を!!
その後も身体を捻ってもどれだけの力で抱きしめてるのか身体に回された腕はビクともしない。

ああ!そうだ!足!足を踏ん付ければ!!

そう思って先輩の足に狙いを定めた瞬間入り口の方でもの凄い音がした。
3回ほど連続でどこかを叩く音がしたかと思ったらそのあとにドォォォォン!!という大音響が!

「……なんだ?」
「…………」

私も先輩も一体なにが起こったのかわからなかったけど私を抱きかかえたままソロソロと
本棚の間から入り口が見える位置に移動しようとした目の前にヌッと人影が現れた。

「「 !! 」」

その影は床に落ちてる私の携帯を拾って私達のほうをジッと見つめる。

「奈々実さん見つけた」

「!!」
「お前……」

こんなときなのに彼はいつもの如く無表情で……でも今はその無表情に冷たさが上乗せされてた。

「奈々実さんに触るな」
「あっ!」
「ぐっ!!」

彼が私の腕を掴んだかと思ったら思い切り先輩を蹴り飛ばした。
突然の彼の登場に呆気にとられてたのか先輩は簡単に私の身体から離れてさっきまでいた
本棚の奥まですっ飛ばされた。
その反動でよろめいた私の身体は彼が両腕でしっかりと抱きしめてくれた。
私はなんの迷いもなく彼の背中に腕を回してしがみついてた。

「まったく油断も隙もあったもんじゃない」
「…………」

私はただただビックリで彼を無言で見上げるだけ。

「奈々実さん委員会終わったら連絡頂戴って言ったのに」
「……あ……ご……ごめんなさい……」
「だからこんなのに捕まるんだ」
「……えっと……」

いや……そういう問題じゃない気がするんだけど。

「もう二度と奈々実さんに近付くな」
「ちょっ……」

なに?その彼氏的な態度??

「くっ……お前に……そんなことを言う権利なんて……ないだろ」

未だに床の上に座ったまま先輩は彼に蹴られた脇腹を押さえながら言い返す。

「今日から奈々実さんはオレの彼女。言う権利あるから」
「はぁ?」

ちょっとなに言って??

「帰るよ奈々実さん」
「え?あ!ちょっ……」

肩を抱かれてそのまま歩き出す。

「ああ!」
「?」

彼がなにか思い出したように先輩を振り返る。

「また奈々実さんにこんなことしたりチョッカイ出したらただじゃおかない。
あんた3年だよね。大学受けるの」
「は?だったら……なんだ」
「?」

ホント一体なに言い出すの?

「無事に大学受験したいよね。っていうか無事に高校卒業したいよね」

「!!」

先輩が何かに気付いたように顔を上げて彼を見る。

「ハッキリ言ってあんたがさっき奈々実さんにしたことは退学になってもおかしくない」

そう言うとチラリと私を見るから私は俯いてしまった。
彼は先輩が私に何をしたかなんて見たわけでもないけど……確かにあのまま彼が来なかったら
私はどうなってたんだろうと身体が強張った。

こんな学校の中だけど最悪の場合だってありえたかもしれない。
ちゃんと抵抗したけど男の人に力で押さえ込まれたらどうしようもないだろう。

「今後ちょっとでも奈々実さんに近付いたり何かしようとしたら生活指導の先生に即相談だから」

「…………」

先輩は無言だったけどガックリと落とした肩と項垂れた頭を上げることはなかった。

「ああそれと入り口の扉直しておいて」
「?」

なんのことかと思ったら入り口の引き戸の扉が2枚一緒に外れてて床の上にあった。
さっきの大音響はこの扉が外れて床にぶつかった音だったんだ。

「なんで?」
「カギがかかってた」
「え?」

いつの間に……?

「ホント無防備で抜けてる」
「…………」

私は何も言い返せなかった。





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