ひだりの彼氏


31




「ちょっ…」

彼が私の腰に腕を廻して歩き出した。

必然的に自分の身体を安定させるために彼の服にしがみ付いて…
そんな状態でどれだけ歩いただろう…

「この辺かな。」
「もう…どれだけ歩くのよ…」
「ちょっと遠いけどここの方が全体見れる。」
「え?」

言われて周りを見るとちょっとした高台で確かにさっきの打ち上げ場所より遠いけど
ここなら空いてるし花火も良く見えるかも…

「なんでこんな所知ってるの?」
「さっき入口で公園の地図があったから。ここでも見えるかと思って。」
「良く見てるわね。」
「オレ観察力あるから。」
「穴場なのかしら…あんまり人がいないわね。」

周りにはパラパラとまばらに人がいるだけ…
ほとんどカップルみたいだけど…

「これから混むかもね。この場所に気付けばだけど。」
「そうね…ってまだ食べ終わってないの?」

彼の片手には食べかけのリンゴ飴があった。

「歩くのに集中してたから。疲れた?」
「ちょっと足がね…下駄なんて滅多に履かないから。」

いつもの歩き方とは違った歩き方をしてるらしくちょっと足が痛い。

「疲れた時は甘いもの。」
「え?…んっ…」

彼がリンゴ飴に口をつけるとそのまま私の唇にそっと触れた。

「…………」
「甘いでしょ。疲れ取れるよ。」

今度はリンゴ飴に口をつけて舌の先でペロリとリンゴ飴を舐めた。

「……ン…ふ…」

唇が触れたと思ったらスルリと彼の舌が私の中に入ってきた…
甘い味と匂いが一瞬で口の中に広がる…

「んっ…ん…ちゅ…」

逃げられない様に腰に廻された彼の腕に力が入って更に彼の方に引き寄せられる。
今度はカプリとリンゴをかじってそのままかじり取ったリンゴを彼が咥える。

「あげる。」
「…良く喋れるわね。」
「器用だから。」

そう言ってゆっくりと私に近付いて来る…

「あーん。」
「………」

この夏祭りの雰囲気のせいなのか…リンゴ飴の甘い匂いのせいなのか…
歩き疲れて甘いものが欲しかったからか…私はあーんと口を開けた。

「ん…」

しっかりとリンゴの欠片を受け取る。
その後はお互い唇に付いた飴の甘い味を味わうように…角度を変えて唇を重ねあった…

「これも…キスじゃないの?」

本当は息があがってたんだけど私は意地でも息は切らさなかった。
だって…それって何だか悔しいから。

「口移し。」

そう言って彼が自分の唇を舌の先でペロリと舐める。

「そう…あ…」
「始まった。」

ちょっと耳に響く音がしたかと思ったら夜空に最初の花火が広がった。
2人して打ち上げられる花火にしばらく目を奪われる。

「綺麗…こんな間近で花火見たの初めてかも…花火自体久しぶりだから…」
「そう。」
「はぁ〜」

花火が上がるごとに 「おお」 とか 「わあ」 とかの声が周りから上がる。

「奈々実さん。」
「ん?」
「最後の一口食べる?」
「………」

本当にこの雰囲気はいつもと違う気分にさせる…

「うん…」

しばらく考えてそう返事をすると彼は最後の一口をカシリと噛みとって
そのまま私に近付いて口移しでリンゴの欠片を食べさせる。

「ん…」

すんなりと私の口の中にリンゴの欠片がコロンと落ちた。

「美味しい?」

彼が私を覗き込んでそう聞いてくる。

「うん…甘い。」

ちょっと照れながらそう返事をして…今度は私が自分の唇を舌先でペロリと舐めた。

そんな私の唇は……まだ飴の甘い味がした…



「ふえ〜何だかスゲェもん見ちゃったな〜」

ツバサを見付けてこっそりと後をつけて来たツバサのクラスメイトの面々…
2人に気づかれない様にちょっと離れた木の影から一部始終を見ていた。

「やだ〜何だかドキドキしちゃう…」
「ツバサの奴年上の彼女とあんな事してんのかよ…それじゃ同年の女子なんて相手にしないわな〜」
「ちょっとエロくなかったか?ツバサだからか?」
「きゃあ〜やだ〜何だか色々想像しちゃうよ〜」
「………」
「大丈夫?喜美恵?」
「…何が?」
「ん…何がって…あんたツバサ君と仲良かったからさ。」
「…別にアイツとは何でもないし。」
「そう?」
「でもさあの人彼女じゃないんだよね?ねえ須々木君。」
「あ?ああ…そう言ってたな。」
「じゃあ…あの2人の関係って?」
「遊び相手?」
「 「 「 「え″っ?」 」 」 」
「どっちが?ツバサが遊んでんのか?」
「うーん…」
「それかやっぱツバサの片思いで相手の彼女がOKしないのに
ああ言う事だけはさせて楽しんでる?」
「えーじゃあツバサ君遊ばれてんの?」
「やっぱ若い男がいいんじゃね?現役の高校生であのツバサの顔だもんな。」
「でもツバサが遊ばれてるってのが信じらんねぇけど…」
「確かに…どう思う喜美恵ちゃん?」
「え?そんな事あたしがわかるわけないじゃん。いいんじゃない三宅が遊ばれて様がさ。
痛い目に遭えばわかるんじゃないの?それにもしかして三宅の方が遊んでるのかもよ。」
「んーツバサが遊ぶっつーのもイマイチな〜」
「本人に聞くのが一番なんじゃない?」
「聞けるかよ!あの状況で!!」
「そう?」

その後もそんな話題で盛り上がっていた。



「奈々実さん。」
「ん?」
「花火最後まで見ないから。」
「え?」
「最後までいたら帰り混んで大変な事になる。奈々実さんの迷子決定。」
「だからどうして迷子決定なのよ!」
「奈々実さんだから。」
「本当生意気!」

彼の宣言通り終了予定時間の15分前くらいに公園を後にした。

私は彼のクラスメイトに今日の事を見られてたなんて気付かなかった…





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