ひだりの彼氏


33




「飲み過ぎないようにね。」
「わかってるしいい加減しつこいわよ。」

約束の金曜日…玄関で靴を履く私に彼がずっとうるさい。

「保護者じゃあるまいし!」
「だから奈々実さんは危なっかしいんだってば。」
「平気です。ただの送別会なんだから。」
「奈々実さん。」
「ん?わっ!」

呼ばれて顔をあげたら彼の顔が目の前にあって思わず彼の肩を押して
寸での所で唇へのキスをかわす。

「ちょっと何するよ。」
「奈々実さんが他の子供にイタズラされない様に。」
「何真面目な顔で何言ってるのよ!子供なんているはずないでしょ!皆大人ですから!」
「余計危ない。」
「失礼ね!これでもそんな付き合い慣れてますから。それに男の人なんているかもわからないし…」
「………」

何よ…そのまるっきり信用して無い顔は…

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

そんな時私の携帯が鳴った。

「あ…はい?はーいわかりました。」
「なに?」
「運転手がいるから車で迎えに来てくれる事になってるの。」
「初耳だけど。」
「今初めて言った。」
「奈々実さん。」
「じゃあ行ってきます。」
「………」

私は彼のいってらっしゃいのキスを何とかすり抜けて待ち合わせ場所に急いだ。

待ち合わせ場所は彼と何度も買い物に来てる近所のコンビニの駐車場。
家からゆっくり歩いても10分も掛からない。

「城田さ〜ん!」
「細川さん…」

コンビニの駐車場で見慣れた顔が私を見付けて手を振る。
彼女の横にセダンタイプの車があってそれが彼女が言ってた運転手付きの車らしい。
前向きで車は駐車場に停めてあったから運転手の人の顔は見えなかったけど…

「久しぶり〜♪」
「お久しぶりです。」
「なかなか会えなくて…元気だった?」
「はい…ご無沙汰しちゃってて…」
「ま…とにかく話はあっちでゆっくりと。乗って!今日は運転手付だから思う存分飲めるわよ。」
「そんなに飲みませんって…どなたかのお知り合いの方なんですか?」
「え?ああ営業部の間宮さんが立候補してくれたのよ。」
「………え…?」

営業の……間宮…さん?

「…………」
「城田さんも知ってるでしょ?営業の間宮さん。」
「…………」
「じゃあ城田さん助手席乗って。」
「え?」
「ほら皆待ってるから。」
「…………」

私は…一瞬動けなくて車のドアの前で立ち尽くしてた…
まさか…彼が…来るなんて…どうして?

働いてる部署が違かったし内々って言うから女の子ばっかりだと思ってたから…
彼が来るなんて全然考えてなかった…

「城田さん?」
「あ…はい…」

仕方なくドアを開けて助手席に乗り込む…
出来れば後ろの席が良かったのに…今更止めるなんて出来ないわよね…

「やあ…」
「………」

みんなの手前仕方なく頭だけ少し下げた。
後部座席には細川さんともう1人私は知らない顔の女の子が乗ってた。

「どう言う風の吹き回しか間宮さん今日の運転手かって出てくれたのよ。」
「いや…多岐川さんには資料作りや見積書作るのにお世話になったしね。
最後くらい祝福して送り出してあげたいじゃないか。それに男性社員も何人か参加してるんだろ?」
「間宮さん入れて5人。隠れ晴美ちゃんファンが結構いたってことかしら?」
「そかもね…彼女可愛いから…」
「やだ〜間宮さんそれって爆弾発言ですよ〜」
「え?そうかな?」
「だって間宮さんだって新婚さんじゃないですか。」
「まあ…そうだけど…男はそう言うのあんまり気にしないし…」
「えーー奥さん可愛そう〜」
「…………」
「間宮さん城田さんが会社辞めた後結婚したのよ。」
「………へえ…そうなんですか…」
「海外事業部の部長さんの娘さん。逆玉の輿ですよね。」
「何だよ…金森さんそれって嫌な言い方だな…」
「え?あ…ごめんなさい…そんなつもり…
相手のお嬢さんが間宮さんにゾッコンだったんですもんね〜ふふ…ご馳走様〜♪」
「ほら!間宮さんいい加減車出して!遅れちゃうから!」
「ああ!!申し訳ない…じゃあ行くよ。」
「お願いします。」

私はそんな皆の会話を黙って聞いていた…

そう…結婚したんだ…そうよね…あの時はもうそう言う話しになってたんだし…

部長の娘さんじゃこの先の将来だって明るいでしょう…


私は家を出た時の気持ちなんてどこかに行ってしまって…

1人黙り込んでた……





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