ひだりの彼氏


39




元々彼とは部署が違うからそんなにも顔を合わせる事も無くて…
と言うか…合わせたくなかったから私には丁度良かった…

後から思うと会社や会社の近くでは徹底して会ったりしなかったな…

彼にそんな相手がいたのを知らなかったのは仕方ないことで…
だって社内でも知ってる人はいなかったんだから…

馬鹿だな…なんて思う…
彼にそんな相手がいるなんて見抜けなかった自分が情けない…

あの時…一言もかばってくれなかった…

そんな男だったのを見抜けなかった自分が許せない…

『変な男に騙されないでよ〜お姉ちゃん男見る目無いんだからさ〜』 

そんな安奈の言葉が頭の中で繰り返される…
いつもそんな事無いって…言い切ってたのに…


「城田さん大丈夫?顔色悪いわよ…無理しないで今日も休めば良かったのに…」
「熱は下がったので…すみません…ご心配お掛けして…」

仲の良かった細川さんにもこの事は話せなかった…

その時からどう言うわけかあまり食事が喉を通らなくなって…

気にしない様にしてるつもりなのに…やっぱり気にしてるんだろうか…私…


その後も体調は中々戻らなくて…気付けば溜息ばかりついていた…
確かに間宮さんにされた事は悔しくて納得出来なかった事だけど
幸い相手から何も連絡も無かったし…会わなければ何とか耐えられた。

それ以上に私の気持ちを重くしていたのはあの時の惨めな自分で…

何度忘れ様としても忘れる事の出来ない感情で…体調も悪いまま電車通勤が辛くなって…
だから…あの日から1ヶ月がたった頃私は会社を辞めた…

1人暮らしも気分的に辛くて…心配した親が戻って来いと言い出した…
その場所になんの執着も無かった私は1度実家に戻る事になって…

何となく彼との事を話してた家族はそんな私を見て男と別れたのが原因だと言う事は気付いたらしい…

でも私に面と向かって聞いてくる事はしなかった…
まあ安奈はそんな私をからかう様に色々言って来たけどそれは安奈なりに
私の事を心配して 「気にするな」 って事を言いたかったらしい…

結局…彼からはあの後1度も連絡は無かった…

あれから半年…新しい仕事も見つかって今まで働いてた所とは打って変わっての仄々ムードの会社…

お喋り好きなおばさん達は時々疲れる事もあるけど前までの疲れとは違う…
通勤も車になったから楽だったし…

それでもまだ時々思い出して落ち込む事もあった…特に雨の日は余計気分も落ち込んで…


そしたら…ある雨の日に…私の車の助手席のドアが開いた…



「車…出して…」
「奈々実…あの時は大人しくしてるしかなくて…本当は俺…」
「あなたはきっと疲れてるのよ…でもそれを癒すのは私じゃない…
それにそんな事の為にあなたと付き合うなんて真っ平よ…
あの時…あなたが一言でも私を庇う言葉を言ってくれてたらちょっとは違う気持ちを
あなたに感じたかもしれないけど…あなたは何も言ってくれなかった…
私があの時どんなに惨めだったかあなたにわかる?」

彼女の横を通り過ぎて部屋を出ようとした時…
彼女はすれ違う私を今度はハッキリとハナで笑った…

「あなたは彼女を選んだのよ。自分が選んだ人でしょ…ちゃんと責任持ちなさいよ。
今更私に何かを求めないで…」
「………」
「早く車を出して。じゃないと警察に通報されるわよ。」

彼ならやりかねないと思えるのが何とも言えないけど…
だからちょっと焦る…

「………」

そんな 「警察に通報」 なんて言葉が効いたのか…間宮さんが無言で車を走らせた。
彼に伝えた時間に間に合うかしら?なんて私はそんな暢気な事を考えてた。


コンビニまで間宮さんは何も話さなかった…

視界にいつものコンビニの明るい看板が見えた時正直ホッとした…
そんなコンビニの入り口に見慣れた人影があった…
車がコンビニの駐車場に停まると私は自分からドアのロックを外して車から降りた。

「お疲れ様でした。もうお会いすることもないと思います。お幸せに。」

私は丁寧に頭を下げた。
間宮さんが何か言いたそうにしてたけど私は気にせず車のドアを閉めた。

「あ…」

思わず声が出た…
だってほんのちょっとの間に彼の周りに高校生らしき女の子が3人きゃあきゃあ言ってたから…
こんな時間でもナンパと言うものがあるのね…しかも逆ナンですか…
だけどまあ相変わらずの無表情ねえ…わあ…堂々とあんな大きな溜息まで…

「あ!」
「うっ!」
「え?」 「ん?」 「なに?」

私に気付いた彼に周りの女の子達も気付いて私の方に一斉に振り返る。

「やっと来た。」
「!!」

そう言いながら目の前にいる女の子達に視線も合わせずにこっちに歩いてくる。

「遅い。約束の時間7分過ぎた。アレに絡まれてなければ警察に電話してた所。」
「だから大袈裟だって…」

やっぱり本気だったのね…

「………」 「………」

後ろでさっきの女の子達が何か言ってた…
「姉貴?」 とか 「年下相手?」 「マジ」 とか聞こえてくる…
ってあんた達…聞こえてますから…

まあ他所様から見たらこれだけ歳の離れた年上女と年下男は一体どんな関係なんだと思うわよね…
チラリと駐車場を見たらもう彼の車は無かった…

好きでもない相手と結婚したのかしら…確かに出世目的での結婚かもしれないけど
相手は彼の事を気に入ってたみたいな事言ってたから少しは彼だって相手に好意は
持ってるんじゃないかな…なんて思うけど…

確かにあのキツイ感じの相手だと疲れると言う気持ちもわからなくもないけど…
だからってその穴埋めを私に求めるのは間違ってると思う…

私は…そんな恋愛に付き合えない…
そもそもそれって恋愛って言うのかしら?


「あ!」
「さっさと帰る。」
「ちょっと…」

いきなり手を繋がれてグンっと引っ張られた。
そのせいで強制的に現実に引き戻された…見上げるといつもの彼の横顔…

帰って来たんだ…なんてナゼかホッとしてる自分がいた…





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