ひだりの彼氏


40




「今何時だと思ってんの奈々実さん。」

スタスタと2人で夜道を歩きながらそんな事を聞かれた。

「え?あ…11時過ぎ…」
「門限2時間以上過ぎてる。」
「だからいつ門限なんて…私の事いくつだと…」
「歳なんて関係ない。奈々実さんは無防備で学習能力無いんだから。」
「なっ!何よ!本当失礼なんだから!」
「男の車に女1人で乗るなんて無防備以外何ものでもない。
いかがわしい場所に連れていかれたら逃げられない。」
「な…何でわかったの?」

だって一応行く時はまとまって行く様な事言ってあったし…
さっきの電話でもそんな事話さなかったし……変な電波でも出してた?透視?
何でだかそんな事も彼なら本当にありそうでちょっと怖いんですけど…

「当てずっぽう。でも正解だったんだ。」

「うっ!」
「ホント奈々実さんって抜けてる。」

うう…無防備で学習能力無くて抜けてるって…言いたい放題じゃないのよ〜〜
っていつもの事だけど…

「……で…でも……もしかして心配してくれてたの?」

左側にいる彼の横顔を見上げて聞いてみた。

「………さあ」

彼は私の方を見ないままそう答えた。

「………」

どうやら心配してくれてたらしい…
じゃなきゃ電話くれたりコンビニまで迎えになんて来るはず無いものね…

どんな気紛れだかわからないけど…

「あれ?自転車じゃないの?」

しばらく歩いてから気が付いた。

「オレの自転車後ろに荷台無いから。奈々実さん後ろに立ち乗りなんて出来るの?」
「……あの高校生なんかが後ろの車輪の軸の出っ張りに足乗せて立ってるやつ?」
「そう。」
「…………」

一応頭の中でそんな風にしてる自分を想像してみる…

「ぷっ!!」

先に彼が吹いた。

「なっ…何よ!何想像して吹いてるのよ!失礼ね!」
「別に。」
「ウソよっ!絶対私がコケる所想像したんでしょ!」
「わかってるね。自分でもそう思ったんだ?」
「!!!」

た…確かに…きゃあきゃあ喚いて最後にはズッコケてる自分の姿想像しちゃったけど…

「奈々実さん運動神経もなさそうだもんね。」
「「も」 って何よ!「も」 って!!本当に失礼ね!!
どうせ自分は運動神経イイんだとか思ってるんでしょ!」
「それはわからないけど逃げ足だけは速いかもね。」
「最低!」
「そう?逃げるが勝ちって言うじゃん。」
「あなたの場合逃げて勝つって感じ。」
「意味の違いがわからない。」
「とにかく失礼な奴って事よ!」
「どこが?」
「…………」

いつもの無表情な顔で本気で言ってる所がムカつく!!

「全部よ!全部っ!!」
「そう。」

そんな小競り合いをしながら家まで歩いて…
いつの間にかさっきまでの間宮さんとの時間は…私の胸の中の奥の奥の方にしまわれた…

それを手助けしてくれたのは…どうやらこのワケのわからない 「年下の居候男」 らしい…



「あ。」

「ん?」

シャワーを浴びようと着替えを持ってキッチンを横切ると彼が私を見てそんな声を上げた。

「…………」
「な…なによ?」

彼がズンズンと私の方に歩いて来る…いつもの無表情な顔なのに…何だか…ちょっと違…う?

「なに?きゃっっ!!!」

私の目の前に立つといきなりキッチンの壁に彼がバンっ!!っと両手を着いて
私をその中に捕まえた。

「な…なによ…どいてよ…それに…顔…ち…近いってば…」

彼がそんな事をするのは初めてで…私を上から覗き込んでて…
オデコがくっ付きそうなくらい顔を近づける。

「やっぱり奈々実さんは無防備。」
「え?」
「こんなのつけられて…それとも合意の上?」
「え?なに??なんの事言って…ひゃっ!」

壁に着いてた彼の右手がすっと動いて私の左側の首筋に掛かる髪をどけた。

「キスマーク…?…ちょっと違う…噛み傷?」
「え?……あっ!」

そう言えば車の中でそんな事があった様な…

「……こ…これは…その…」

私はもうシドロモドロで挙動不審…だって…すっかり忘れてたから…

「送って来た奴?」
「…………」
「その人のこと……好きなの?」
「…………」

私は俯いて首を振った。

「……出掛けのキスをしていかないからこうやって他所の子供に悪戯されるんだ…」
「……え?」
「明日から拒否しない。」
「ちょっ…」

彼の顔がさっきよりも近付いてくる…でも彼はそのまま私の首に顔をうずめた…

「ちゅう…」

っと言う小さな音がして…きゅう…っとキツく首筋の肌が吸われて…私の身体がビクンと跳ねる。

「……んあっ……あっ!!」

彼の右腕でビクンと跳ねた身体を抱きしめられて押さえられた…

「あっ………んっ…」

さらにキツく肌を吸われて自分の着替えを胸に抱え込みながら彼の着てるシャツを両手で握り締めた。

首筋から身体中に何とも言えない感覚が広がる…ムズムズみたいな…痺れるような…
微かに頬に触れる彼の髪の毛がくすぐったい…

とにかく力が抜けちゃう…

「ちゅっ♪」
「!!」

やっと離れたと思ったら軽く触れるだけのキスを同じ場所にされた。

「……ハァ……ハァ……」

何で息なんてあがっちゃってるの?私…ってどうやらずっと息を止めてたらしい。

「綺麗に消えた。」

そう言って自分の唇を舌先でチョロっと舐めると私の身体に廻されてた彼の腕が離れた。
彼はそのまま奥の部屋に入って行く…

1人その場に取り残された私はヘナヘナとしりもちをついて床の上に座り込んでしまった。
徐々に胸の中にドキドキが広がっていく……


ちょっ…ちょっと…ちょっとーーーー!!!一体何が起こったの???

い…今のは一体…なんなのよーーーー!!!





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