「良くわからないけど奈々実さんがオレ以外に無防備だとイライラする。」
「………」
「はあ…」
彼はそう言って溜息をつくと私の前から離れてまた隣に座った。
そして頭を壁に着けて天井を仰いだ。
「……もう止めてよね…」
「なにが。」
「………ボソッ」
「ん?」
「だから…」
「だから?」
「…キ…」
「キ?」
「キスマーク!つけないで!」
「なんで?」
「なんでって…あなたにつける権利ないでしょ!」
「だね。」
「!!」
なんでそんなに素直??
「なに?」
「じゃあなんで?」
「さあ。」
「!!」
「あ…怒った。」
「怒るでしょ!普通!」
「キスは怒らないんだ。」
「!!」
今回のはキスなんだ…ってわかりにくいなぁ……
「なんで?」
「なんでだろう…じゃあ奈々実さんはなんで?」
「何が?」
「なんでオレを嫌がらないの?」
「……へ?」
「……ぷっ!」
「!!」
「間抜けな顔。」
「なっ!」
「乾かしてあげる。」
「は?」
「来て。」
「あ…ちょっと…」
そう言って立ち上がると私の腕を掴んで立ち上がらせるとそのまま洗面所に連れていかれた。
鏡の前に立たされて彼がドライヤーで髪を乾かし始めた。
「………」
一体どうしたんだろうか?
それから約20分ほどして私の髪を乾かし終わるとまた私の腕を掴んでベッドのある部屋に入る。
「歯磨きした?」
「…うん…さっき…」
「じゃあいいや。はい寝て。」
「え?」
「オレ眠い。」
「は?」
「寝るよ。」
「あ…ちょっと…」
身体を押されて仕方なくベッドの上に両手を着いて乗る。
すかさず彼もベッドに乗ってきた。
「おやすみ。」
「………おやすみ…」
私は呆気にとられちゃう…
彼はいつもの様に仰向けで…でもいつもと違うのは彼の右腕が私の方に伸ばされてたこと…
「この腕はなに?寝れないんだけど?」
「気にしない。」
「気にする。」
「そう。」
「……もしかして私に気を使ってくれてる?」
「何が。」
「……そんなに変?」
「……」
目をつぶってた彼が目をあけて私を見た。
「首にそんなのつけられて帰って来たら普通じゃないでしょ。しかも好きな相手じゃないなら余計。
気にしない人なら別に構わないけど奈々実さんは違うとオレは思う。」
「………なんか…いつもと…違うじゃない……」
私はベッドの上に座ったまま…彼を見下ろしてた。
いつもと違う彼…だって…からかう事もしないで…ちゃんと私と向き合って心配してくれてる…
この時は彼が高校生だって…忘れてた…
「言ったでしょ。オレ観察力あるの。」
「………」
「ほら寝るよ。奈々実さんの休みもあと土日しかないんだから。明日は映画。」
「………うん……ありがとう…」
そのありがとうは映画の事なのかそれとも…
私は遠慮なく彼の腕枕を使わせてもらった。
見かけによらずしっかりした腕だった…
「!!」
頭を乗せたら彼の腕がそっと曲がって…彼の方に引き寄せられた。
私はびっくりしたけど今日はそのまま彼の好意に甘える事にした。
頭の下に彼の肩があって…目の前に…彼のTシャツがある…
曲げられた彼の腕はそっと私の肩を抱いてくれてる……
流石に彼の顔を見るのはちょっと恥ずかしくて…
でも…それが今の私にはとっても安心できるもので…静かに目を閉じることが出来た…
「………やっとね……終わったんだ……」
しばらくしてからそんな言葉をポソリと呟いたけど…
彼が聞いてたかどうか…わからなかった…
「もーどうしてくれるのよ!」
「気にしなきゃいいじゃん。」
「するわよっ!バカっ!!」
次の日…映画に行こうと着替えるとどうやっても隠れない首にバッチリとついた2つのキスマーク!
しかも濃い赤だし。
「バンドエイド。」
「首に2つも貼れますかっ!高校生じゃあるまいしっ!」
「今時高校生でもいないかも。」
バチン!
「いたい。」
彼の頭を張り倒した。
「もー映画行けない〜」
「……化粧で隠せば。」
「ここだけ化粧なんて違和感ありまくり!」
明らかに首の色とちがくなる。
「マフラー。」
「今の季節何だと思ってるのよ!………はあ〜〜」
「仕方ない。」
「え?」
「レンタルで何か借りる。何がいい?」
「え…」
「何か見たいものある?」
「いいの?」
「奈々実さんどこかで会員になってる?」
「うん…駅前のお店。」
「じゃあ今日はDVD鑑賞会に変更。映画はそのキスマークが消えたらね。」
「うん。」
ああ…何だか昨夜から私ってばありえないほど素直。
2人で相談して借りたいモノを4本程決めた。
「あ…」
彼1人で借りに行くのに玄関で何かに気付いた様に声を出す。
「なに?」
「いやさ…」
「?」
「それってあと2日で消えるのかな…って。」
「!!!」
私は月曜日からの会社の事を考えて頭の中が真っ白になった…
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