ひだりの彼氏


47




「はい奈々実さんこれあげる」
「は?」

火曜日の只今夜の7時半…
私の部屋のキッチンで2人でテーブルに向かい合って彼の作った夕飯を食べてる。
そんな私に彼が指に挟んだブルーのパステルカラーの小さな紙を見せた。

「何これ?」
「見てわかんない?招待券」
「なんの? 『光輝祭』 ?」

小さな紙にはそんな文字が太字で書いてあった。

「ウチの学校の文化祭」
「文化祭?」

そう言えば最近彼が帰る時間が遅くなるって愚痴を溢してたっけ…

「少しはやる気になったの?」
「なるわけないでしょ。だから奈々実さん来て」
「は?」

言われてる意味がわからない?

「毎年苦痛だから奈々実さんが来てくれるならちょっとはやる気出す」
「な…何馬鹿な事言ってるのよ!そんなの無くたってやる気出しなさいよ」
「だって毎年客寄せやらされるから欝陶しい」
「客寄せ?」
「チラシ配ったり来た人に声掛けたり…逆に話し掛けられて無理矢理一緒に
写真も撮られるから余計欝陶しい。腕とか触られるし……」

って本当に欝陶しいと思ってるのか?と思える無表情な顔なんだけど…
きっと彼は相当嫌がってると思われる…

「嫌って言えばいいじゃない?」
「それが文化祭でのオレの仕事だからって却下される」
「………」

彼をダシに使って呼び込んでるわけか…

「で?ちゃんと役目は果たしてるの?」
「オレがずっと無言でいるからいつも隣に誰かいてそいつが勝手に色々喋ってる」
「はあ〜〜」

本当いるだけでOKってこと…

「で?今年は何やるの?」
「えー?なんかドーナツ売るとか言ってたな。飲み物と」
「喫茶店?」
「多分」
「もうちゃんと話は聞きなさいよ!」
「オレは売り子さんなんだって」
「売り子?」
「テーブルに持っていく」
「はあ?……プッ!もしかしてウエイター?」
「さあ」
「大丈夫…なの?」
「さあ」

確かにさあでしょうね…

「でも奈々実さんが来たらちゃんと接客してあげる」
「え?」

真面目に呆けてしまった。

「や…嫌よ!なんで私がそんな高校の文化祭に…」
「だよね。だから無理にとは言わない」
「………」
「はあ…」
「な…何よ…」
「やる気起きないな」
「……元々やる気なんて無いんでしょう!」
「さあ」
「そんなことよりなんで毎日ウチに来るのよ!」

そうなのよ!毎日彼はここに帰って来る。

「泊まってないじゃん。泊まるのは週末だけにしてる。何か文句でも?」
「………」

確かに泊まるのは週末だけだけど…

「自転車通学にもなって健康的 ♪」

2学期から彼は自転車通学に切り替えた。

「時間掛かるでしょ?」
「そうでもない」
「そう?」
「オレ足が長いし」

ベシン!!

「痛い」

頭に軽く手の平を落とす。

「本当に勉強大丈夫なの?」
「大丈夫」
「………」

相変わらずの無表情でわからない…でももっとわからないのは……

「なに?」
「あなたって……結構マメ?」
「さあ」

いや…色々とマメでしょ?

「奈々実さんが大雑把すぎ」
「なっ!!」
「野菜切るのもフキン絞るのも…」
「………」

なんだかんだと彼が言い出した。

「何?あなた姑?」
「花嫁修業見てあげようか」
「余計なお世話よ!」
「まずはその短気だね」

ムカッ!!

無表情の顔でサラリと言われたから余計カチンと来る。

「それも余計なお世話よ!」
「そう」
「そうよ!!」

そんな会話が毎日の様に続いてる…
本当一体なんなんだか……こんな生活はいつまで続くのかしら?
そんな私も最近では諦めの気持ちが強い。

だって彼って結構強引で自己中だと察してきたから…




「ようこそ〜 ♪」 「楽しんで行って下さ〜〜〜い ♪」

あれから数週間後オレの高校の文化祭2日目。
1日目は一般公開無しで生徒だけで一般公開とは違った予定が組まれてる。

それが余計めんどい…半日は体育館に缶詰状態で面白くもナイ話ばっかり聞いてた。
殆んど寝てたけど…おまけに昨日は……



「ツバサ!」

やっと体育館の缶詰状態から解放されて教室で窓際に置いてあるイスに座って
机に頬杖を着いてぼーっとしてた。
そこに須々木がニヤニヤしながら入って来た。

「あれからどうよ?」
「何が」
「年上の彼女だよ〜」
「だから彼女じゃないって」
「またまた〜で?」
「?」
「アレ ♪ 役に立ったか?」
「………」
「何だまだか〜」
「もうお前あっち行け」
「来るのか?」
「は?」
「年上の彼女だよ〜文化祭に来るのか?」
「さあ」
「さあって…なんでそんなに勿体振るかな〜?」
「オレも知らない」
「はあ?何なんだよ…お前等?」
「何が?」
「お前等一体どんな関係?」
「さあ」
「………」

そんなオレの返事に須々木は不満顔だ。
オレと奈々実さんの関係をなんで須々木なんかに話さなきゃいけない。

「お前等だってツバサの年上彼女見たいよな?」

いつの間にか教室に入って来てた水谷達がいきなり須々木に話を振られて焦りまくってる。

「まあ…興味はあるけど…さ」
「でもぉ…あの人本当にツバサ君の彼女じゃないの?」
「彼女じゃない」
「じゃあ…どんな関係?」
「………」

一瞬沈黙が流れる。

「言う必要ない」
「だから勿体つけんなって…」
「いいじゃない。言いたく無いって言うなら!」

水谷のキツメな物言いの声が教室に響いた。

「喜美恵ちゃん…」
「本人が言いたくないって言うんだから…それにそこまでして知りたいことじゃないし」
「俺は知りたい!」
「じゃあ勝手に男同士で話せばいいじゃない!」
「ふ〜ん色々わかっても教えてやらんからな!」

色々教えるつもりなんて無いんだけど…

「結構よ!三宅だって相手がどんな人かわかってて付き合ってるんでしょうから?」
「え?喜美恵ちゃんそれどう言う意味?」
「別に…ほら明日の準備まだ残ってるんだからやっちゃおうよ」
「うん……」

そんな会話の最中に他の生徒も教室に集まりだして話はそこで終わった。

「なんだよ…あん時はあいつらだってきゃあきゃあ言ってたのによ」
「あれが普通。お前が首突っ込みすぎなの」

オレはさっきと同じ様に机に頬杖を着いてのんびりと外に目を向ける。

奈々実さん……明日来るのかな?どうだろ?
オレはもう奈々実さんに確かめたりはしないけど……


なんて思いながら今日の夕飯は何にしようかと今度は机にうつ伏せて考えてた……




「お姉ちゃん早く!」
「ちょっ…そんなに引っ張らないでよ…」

私の目の前を妹の安奈が私の腕を掴んだままズンズンと歩いてる。
うう…どうしてこんな事に……

まあ…確かに悩んでたわよ…どうしようかなーーって…
こっそり覘いてさっさと帰るのもいいかな?なんて思ってたのに…

朝いきなり安奈がやって来て無理矢理ここに連れて来られた。
そりゃあんたはここの卒業生だし……まだ卒業して2年だし…でも私は……

「ひゃ〜〜懐かしいな ♪」

周りを見回して物思いにふけってる。

「あんた身体大丈夫なの?つわりは?」
「もう大分おさまったよ。それに2人目だもん楽勝楽勝!」

何が楽勝なんだか…でも流石に2度目は慣れてる…

「調子悪くなったら言いなさいよ」
「大丈夫だって」

「センパ〜〜〜〜イ ♪ いらっしゃ〜〜〜い ♪」
「おお〜〜〜来たよ〜〜〜 ♪」
「…………」

きゃぴきゃぴの女の子達が安奈に手を振りながら近付いてくる。
以前うちに遊びに来てた女の子達……
茶髪にアクセサリーに…ホント校則緩いんだな〜〜なんて思う。
でも落第しないと言う事は彼女達もソコソコ頭は良いはずで…
人って見かけによらないんだとつくづく思う…

そう言えば最初彼がうちに来たのって一体どう言う風の吹き回しだったんだろう?
あの彼の性格で良く安奈の誘いについて来たもんだと今なら思う。
今度聞いてみようかな?

「あれ?お子ちゃまは?」
「じいちゃんばあちゃんに預けて来たわよ〜 ♪ 久々の独身気分 ♪」
「そっかぁ〜あ…えっと安奈センパイのお姉さん…でしたよね?」
「こんにちは…」
「引き篭もってばっかりだから連れて来たの!今日はあんた達の若さをチャージさせないとね」
「きゃははは!!本当に入ればいいんですけどね〜」

ってあんたらちょっとバカにしてるでしょ??
どうせ私のお肌はピチピチしてませんよ。

「そうそう!!ツバサがね…」

「!!」

彼の名前を聞いただけでドキリとなる。

「ウエイターやってんですよ。笑っちゃうでしょ?」
「ツバサが?あいつあんな態度で勤まるの?」
「なんかそんな冷めた態度が逆に女性客のツボに嵌ってるらしいですよ」
「まあアイツはビジュアルはなかなかイケてるからね〜〜騙されるよね」

確かに…黙って立ってれば…って本当に黙って立ってるだけだと思うけど…
心の中では 「めんどい」 と 「鬱陶しい」 の言葉以外無いんじゃないかと思われるけど…

「早く行かないとドーナツなくなっちゃうかもですよ!センパイ!!」
「そりゃ早く行かないと!ほら!お姉ちゃん行くよ!」
「へっ!?」
「何しに来たのよ!色々廻るんだからチンタラしないでよ」
「わっ!ちょっと!!!」

グイグイと腕を掴まれて連れて行かれる!!!


えーーーー!!えーーーー!!ちょっ…ちょっと待って!!!

そんな…心の準備が出来てないってーーーーー!!!





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