ひだりの彼氏


56




「ちょっ…ちょっと!!」

私の身体に廻された彼の腕を何とか解いた。

「奈々実さん?」
「ちょっと待ってて」

そう言ってキッチンの電気を点ける。
暗闇に慣れてた目が急に明るくなって痛いくらいに眩しい。

そんな中で彼に向かって振り向いた。

「奈々実さん目が真っ赤ハナも赤い」
「うるさい!今そんな事関係ないから!!」
「…………」
「はあ〜〜〜〜」

とにかく深呼吸!

「さっき言った言葉は冗談よね?」
「冗談?なにが」
「えっと……そ…その……私と結婚するとかなんとか……」
「本気だけど」
「なっ!!なんで??」
「なんで?それこそなんで?結婚したいって奈々実さんが言うから」
「だ…誰もそんな事言ってないでしょ!!それにそうだとしても何で相手があなたでいきなりなのよっ!」
「望んだのは奈々実さんでしょ」
「望んでなんてないっ!」
「オレとの関係を誰にも何も言わせないにはそれが一番だと思うけど」
「だ…だからって飛躍しすぎ!!第一……」
「なに」
「あなた…私の事好きでもなんでもないんでしょ……彼女でもないし……」

そうよ…そう言ってたもの…

「そうだね」
「じゃあやっぱり冗談じゃない」
「なんでそこで冗談になるわけ」
「なるでしょ?何とも思ってない相手にそんな事言うなんて…」
「何とも思ってないなんて言ってないけど」
「え?」
「自分の中にこれが好きって言うものなのかなって思うものはある」
「うそ……」
「自分ではまだそれがそうなのかよくわからないけどね。どんだけ屈折してんのかって話だけど」
「…………」
「でもオレにはそんな感情関係ない」
「は?」

「いつも奈々実さんがオレの傍にいればいい」

「え?」

「奈々実さんがいればオレはいつもホッとできるからオレはそれでいい」

「それって…私のことが好きってこと?」
「 『好き』 っていう言葉を言って欲しいなら言えるけど今のオレの中ではあんまり意味が無い」
「はい?」
「自分の中でオレの気持ちとその言葉が一致してないからそんな言葉いらない」
「……」

「オレは奈々実さんが奈々実さんのままずっとオレの傍に居てくれればそれでいい」

「……」

えっと…多分彼の話を要約すると…
私に好意を持ってくれてるってこと…よね?わかりにくいけど…

「あなたの気持ちは何となくわかったけど…でもいきなり結婚って言うのはやっぱり飛躍しすぎじゃ…
それに私の気持ちがまるっきり無視されてるし…」

「ぷっ!」
「なっ!?」

いきなり彼が吹き出した。

「奈々実さん」
「何よ!」
「さっきも言ったけど自分の性格わかってる?」
「え?」

彼が私の真正面に立って真っすぐ私を見つめてる。

「奈々実さんは遊びで付き合える人じゃない」
「………」
「あの初めて奈々実さんと飴を半分こした時全然嫌がらなかった」
「は?な!い…嫌がったじゃない!」
「そう」
「嫌がった!」

多分…

「まあいいけど」

良くないでしょ!

「その前に部屋に勝手に入ったのに怒るどころかオレの心配してた。
一番はこうやって一緒に暮らしてること」

「!!」

「どうして嫌がらないの」
「………」
「一つのベッドでも寝れたよね」
「……そ…それは…」
「それは?」

彼が言いながら私に近付いて来るから私は何となく後ろに下がる。

「あなたが…頼むから……」
「オレが頼んでも断ればいいんだ」

また彼が近付くから私もまた後ろに下がる。

「だって…」
「だって?」
「別に……」
「別に?」

私はその場で彼から目を逸らして…なんでこんなか細い声に…

「な…なんとも思って無かったからで…」
「へえ」
「!!」

バ…バカにされてる?
そう思って顔を上げたらいつもの無表情の顔の彼がすぐ近くに立ってた。

「あ…あなたの事なんか何とも思ってないから!さっきも言ったでしょ!高校生は相手にしな…」
「オレも言った。精神年齢はオレの方が上だって」
「ムッ!!」
「それにすぐに高校なんて卒業する。大学生なら少しは気にならなくなる?」
「そ…そう言う問題じゃ…」
「そう言う問題でしょ奈々実さんには。その上 『夫』 になれば誰も何も言わない」
「だから!!何でいきなりそう言う話しに…」
「奈々実さんは最初からオレを受け入れてくれてたってこと」
「ち…違うわよっ!!」

なんでそんな風に言い切れるのよ!

「オレ今までかなり自分抑えてきた」

「え?」

「奈々実さんに対してじゃなくて」

家庭での事を言ってるの?
って言うかやっぱり私にはやりたい放題だったってこと?

「抑えてたって言うか諦めてたって言うか面倒だったって言うか」
「で?」

一体何が言いたいの?

「だから奈々実さんには我慢しない」
「は?」
「 『妻』 って言う肩書があれば 『彼女』 なんて肩書いらないしオレが彼女なんて肩書嫌だから」
「………」
「 『妻』 って言うのも奈々実さんをずっとオレの傍に置いておく手段の1つ」
「はい?」
「いくら奈々実さんでもわかってると思うけど」
「!!」

だからその上から目線の言い方に腹が立つ!

「オレ自己中でワガママだから」
「!」

今更ながらの事を彼が言った。
そんなこと…知ってたわよ!!

「諦めて」
「!!」

最後に念を押されてまたニッコリと微笑まれた!


いや…それに隠れ俺様も入ってるでしょ?

って言いたかったけど本人が認識してないみたいだから言うのを止めた。





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