ひだりの彼氏


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「今見た事忘れてもらえます?」

「 「 「 へ? 」 」 」
「は?」

彼がいきなりそんな事を言い出して彼以外の全員が頭にハテナマーク。

「親に内緒なんで」

そんなセリフにまたまた皆ハテナマーク。

「家から離れた場所でデートすれば大丈夫かと思ったけど上手く行かないな……奈々実」

「 「 「 奈々実? 」 」 」

奈……奈々実ですって!?私もビックリ!!

「オレ達愛し合ってるんです。姉弟だけどどうしても諦めきれなくて……」

そう言うと彼は私と指を絡める様に繋いで金森さん達に見せつける様に手を挙げた。

「 「 「 !! 」 」 」

はあぁ―――?!彼は一体何を言って何をしてくれちゃってるのかしら??

「ま…まさか?」
「マジ?」
「城田さん?」

3人とも信じられないって顔で色んな事を勝手に呟いてる。

「え”っ!?あ…いや…その……」

何で彼がいきなりそんな事を言い出したのか私は訳がわからなくて……
でも金森さん達は姉弟で付き合ってるなんて私以上にビックリのドン引きしてるじゃないのよ!!

「離して」
「え?」

彼が急に目の前の1人の女の子にそう言った。

「オレに触らないで」
「え!?あっ……」

言われた女の子がパッと触れてた手を離した。
さっき何気なく彼の腕に触れてたんだっけ?まだ触ってたの?
でも今の言い方は普段あんまり聞かない彼の声だった気がする……

「じゃあくれぐれも今見た事は内密に。まだデートの途中だから」
「…………」

3人はまだ固まったままだ。
そんな中……自分だけが正気を取り戻した。

「ちょっ……ちょっと待った!!あなた一体何を言い出すのよ!!」
「…………」

私のそんな言葉に彼は無言の無表情で見下ろしてる。

「城田さん?」
「ち…違うから!金森さん!!誤解だから!!彼とは姉弟なんかじゃないし!!」

とにかく誤解を解こうと思って慌てふためく私。
繋いでない片方の手をブンブンと振る。

「え?違うんですか?」
「そうなんだ……」
「だよね?やだちょっと信じちゃったよ……」
「そうそう彼は弟なんかじゃないから」

お互い誤解が解けてホッと胸を撫で下ろす。

「じゃあ……彼氏?」

彼の腕に触れてた女の子が真面目な顔で聞いて来た。

「へ?」
「ぷっ!」

彼が堪え切れない様に横を向いて吹いた。

「そうなんですか?城田さん?」
「あ……えっと……」

ひーーー!!これは結局自分の首を自分で絞めた!?

「マジ彼氏なんだ……」
「ウソ!?信じらんない……なんで?」
「ちょっとあんた達!!」

失礼な事を言う彼女達を金森さんが気を使ってくれてたしなめるけど
金森さん自身も何でこの2人が?なんて顔してる……
まあごもっともな反応だと思いますけど……やっぱりかなり凹む。

「なんだバレちゃったか」
「!!」

見上げると彼が無表情で3人を見てる。

「オレから迫ってやっとOKもらったんだからそんなふうに言うのやめてくれる」
「!!」
「それで奈々実さんに拗ねられたりしたらあなた達責任取れるの」
「ちょっと!!」

やめてよね……彼女達マジで引いてるじゃないよーーー

「デートの途中だから邪魔しないで。行くよ奈々実さん」
「あ…ちょっと……ごめんなさい金森さん……じゃあ……」

そんな言葉も彼が繋いでた手を引っ張るから顔だけ捻ってやっと言えた。

「いえ……」

チラリと映った彼女達が私達を見て何か言ってるのがわかった。
ああ……きっとどうして私なんかが高校生の彼と付き合ってるんだとか
年が離れすぎてるとか色々言われてるんだろうな……


「オレはどっちでもよかったのに」
「え?」

スタスタと歩く彼が私を見ないでそう言った。

「恋人でも近親相姦でも」
「は?」

そう言って私の方を振り向いた彼の顔はいつもの無表情な顔だった。

「どうせあの人達とこれから会うことなんてオレはないし」
「……」
「禁断の恋でも」
「ちょっと……」

「でも弟って言われて否定しなかったのはイライラした」

「え?んぅ!!」

繋いでた手を引き寄せられていきなりキスされて固まる……

こんな人通りの多い休日の駅ビルのお店の通路のど真ん中で
なんの遠慮も無しで舌を絡めるキスをされた。

「!!!!!」

時間にしてみたらホンの数秒だったかもしれないど離れる時に彼の舌がイタズラっぽく
ちょっとだけ唇から見えてたのには流石に目を奪われてドキンとなった。

私は彼が離れた瞬間繋いでない手で自分の口を覆う。
周りがざわめいてるのもわかったけどそっちに視線を向ける勇気は無くて目の前の彼を涙目で睨んだ。

「顔真っ赤だよ奈々実さん」

誰のせいだと……

「可愛いね」

こんな時にニッコリと笑う……この男はーーーーーっっ!!!

「いきなり何する……」

文句を言おうと思ったらスッと彼の顔が近付いて来たから反射的に後ろに顔を逸らした。

「これからは弟じゃないってちゃんと否定してよね。じゃないともっと恥ずかしい目に遭うよ」

「なっ!!」

私だけに聞える様にそう言うとさっきよりは控え目に彼が微笑んだ。

「どっちを取るかは奈々実さん次第だけど」
「…………」
「オレとしては公衆の面前で奈々実さんとの関係を知らせることが出来る方を取ってもいいけどね。
次は1分くらいしようか……ね?奈々実さん」
「……あのね……誰が大人しく……」
「抵抗出来ない様にするのなんて簡単なんだよ。奈々実さん」

そう言うとまた私に顔を近付ける……何怖いこと言ってんのよ!

「今度は抱きしめてからにする」
「!!!」

何ですってーーーー!!!

「ほら行くよ」
「…………」

彼に引っ張られるまま……また歩き始めると彼がキョロキョロと周りを気にしだした。

「なに?何キョロキョロしてるのよ?」

怪しい!!

「え?誰か知ってる人いないかなと思って」
「は?どうして?」
「え?いやさ……」
「なに?」

「また弟って聞かれたら奈々実さんなんて答えるのかなと思って」

「なっ!?」

「否定しなかったら面白いのになってさ」

「…………」

狙ってる……私が知り合いに会って彼の事を 「彼氏」 と言わない事を狙ってるんだ!!

「ふんっ!誰が同じ手に引っ掛かるもんですかっっ!!」

強気な態度で言い返す。

「へえ……じゃあオレの事を 「彼氏」 って紹介してくれるんだね。凄い進歩」

「ハッ!!」

「くすっ」


彼が勝ち誇ったようにハナで笑ってちょっとだけ微笑む…
そんな態度に余計腹が立つ!!

結局どっちに転んでも私には不利で彼には有利って事じゃない!!

もーーーー!!この男……一体どこまで腹黒いのよーーーーっっ!!





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