ひだりの彼氏


67




引っ張られて入ったのはよく見かけるドラッグストア……

ウソウソウソでしょーーー!!か…彼がそんなことを考えてるなんて!?
ドラッグストアで必要なものなんて……!?

まさか……あの……いわゆる……大人の家族計画と言うものですか?

「これ持って」
「え?あ……」

繋いでた手を離すと買い物カゴを持たされた。

「えっと……?」

え?何?買い物カゴが必要なほど買うの??ウソでしょ?どれだけやる気満々?
私は頭の中がパニックになりながら彼の後をついていく。

いいの?私……

「……」

チラリと覗いた彼の横顔は至って普通でいつもどおりで……ちょっとムッとくるかも!



「!!」

ドサドサ!と買い物カゴに品物が投げ込まれた。
1つじゃない……だから何でそんなに買うの?
恥ずかしながら買い物カゴを覗くと中には湿布が3袋……

「え?」

湿布?

「こっち」
「あっ!」

違う通路に腕を引っ張られて連れていかれる。
そこでは包帯とテープを投げ入れた。

「ちょっと?」

これって一体……?

「行くよ」

彼がサッサと会計を済ませてお店を後にする。

「ねえってば!」

買った品物の入ったビニールの袋を掴んだまま私と手を繋いで歩き出す。
湿布なんて買って思い当たることは1つで……

「ごめん……」
「なにが」
「さっきのでケガしたんだよね?」
「別に」
「ウソ!」
「早く帰ろう」
「……うん」

私は彼がさっき腕をケガしたのかもしれないということがすっかり頭から抜け落ちてた……


しかもあんな恥ずかしい勘違いまでして……情けない……うう……

アパートに帰って上着を脱ぐと彼が脱ぎ難そうに片手で上着を脱いでた。

「あ!やるから!!」

もう……私ってば本当にバカだ!!

「奈々実さん」
「……」
「奈々実さん!」
「ハッ!」

奈々実さんがさっきから黙ったまま黙々とオレの上着を脱ぐのを手伝ってる。
でもその雰囲気はいつもと違って押し黙ってるような……重い雰囲気……

「そんな顔しなくても大丈夫」
「……ウソでしょ……」
「……っ!!」
「!!」

気をつけながら捲り上げたシャツの袖の下から出てきたものは
大きく楕円形に浮き出てた青痣だった。
部分的に赤黒くもなってて見てるだけでも痛そうだった。

「ちょっ……い……医者っ!!」

私は頭が真っ白になって大パニック!!

「奈々実さん大丈夫だってば」
「な……何言ってるのよ!!お……折れてる!!絶対折れてるって!!
医者……ううん……きゅ……救急車っ!!!えっと……えっと……
救急車は11……えっと何だっけ??やだ!わかんない!!」

私はバックから携帯を取り出してボタンを押そうとするけど手が震えてて上手く押せない!

「奈々実さん」
「ちょっ……待ってて!今救急車呼ぶっ!!あ!私の車で……」
「奈々実さん落ち着いて」
「何言ってるのよ!怪我してるのよ!!大怪我よ!!病院行ってちゃんと治療してもらわなきゃ……んっ!!」

いきなり彼が私の唇を自分の唇で塞いだ。

「んっ……」

クイッっと押し上げるように強く唇を押し付けられた後ゆっくりと彼が離れた。
離れてすぐにまた触れるだけのキスをちゅっ!っとされる。

「落ち着いて奈々実さん。本当に大丈夫だから」
「だって……」
「指も動くし折れてたりヒビ入ってたらこんなんじゃすまないくらい腫れるから。だからこれって打撲」
「……うそ……うそよぉ……こ……こんなに腫れてるじゃない……」
「ちょっと膨らんでるくらいだから。折れてたら倍に腕腫れる」
「……倍?」

眩暈がした……

「昔泉美に……2番目の姉に散々怪我させられてたから大体どんなケガか自分でわかる。
だから……泣かないで……奈々実さん」

「……だって…………ご……ごめん……なさい……わた……私っ……
危ないこと……危険な目にあなたを……遭わせちゃった……しかもケガまで……うっ……」

「奈々実さんが気にすることじゃない」
「気にするわよ!私が頼んだんだもの!!」

やだ……これって逆ギレ?

「そんなにオレに悪いと思ってるの」
「え?」

彼が私の顔を覗き込んでそんなことを聞いてきた。

「申し訳なかったと思ってる?」
「……うん」

「じゃあお詫びにオレのことこれからは名前で呼んで」

「へ?」
「オレに悪いと思ってるんでしょ。なら出来るよね」
「…………」

ニッコリと彼が笑う……え?彼が笑ってる?ってちょっと怖い……

「ね」
「……あの……」

それって……今言う言葉?でも何気に威圧的な言い方で反論出来ない……

「ああこれは何でも言うこと聞くって言うのとは別だから」
「へ?」
「わかった奈々実さん」
「……」
「わかった」
「は……い……って私名前呼んでなかった?」

そんなことないでしょ?いくらなんでも?

「自覚ないの」
「いや何度かはある……でしょう?」
「ない」
「うっ……」

速攻で断言したわね。

「ないけど」
「…………」

ううっ……何よ……なんなのよ……そのいつにも増して無表情な顔と呆れた眼差しは!!
しかも何で2度確認?なんだか申し訳なかった気持ちなんてどっかいっちゃったんですけど……

「今日初めて呼ばれた」
「う……」
「呼んでみて」
「え″っ!?」
「慣れないとね。早く」
「……」
「“これ”の責任感じてるんでしょ」
「ぐっ……」

腕の痣をぐい〜〜っと見せられた。
くーーー!!

「……」 「……」

しばし沈黙。

「言えないの」
「……」
「なんでそこまで頑(かたく)な?」
「なんでって……」

改まってなんて……恥ずかしい……じゃない……

「……はあーーー」
「!!」

ううっ!!凄いガックリした溜息!!

「今さらだし気長に待つけどね」

そう言ってそっと私の頬を指先で撫でた。

「っていうかいい加減湿布貼りたい」
「あっ!ごめっ!!」

私は慌ててビニール袋から湿布を取り出す。

「……っ!!」
「あ!痛い?」

一応細心の注意を払って貼ったんだけど……

「冷たい」
「え?ああ……だって湿布だもの」
「テキトーに貼ってるからじゃない」
「しっ……失礼ね!ちゃんと貼ってます!」
「きっと愛情が篭ってないんだ」
「はあ?」

一体何を言ってるの?彼は?

「わかってないし忘れてるし」
「何を忘れてるっていうのよ」
「原因」
「うっ!」
「頑張ったよねオレ」
「……」
「ね」
「あ……あなたってば……」
「!」

何であなた?っていう感じの視線で睨まれた。

そんなこと言ったって……

だから名前で呼ぶのは恥ずかしいからだってばーーーーー!!





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