ひだりの彼氏


76




2人の初めてのクリスマスはなぜか奈々実さんが最後に盛大に拗ねて終わった。
寝る時もオレに背中を向けて寝ちゃったし。
大人げないなと思いつつきっと奈々実さんの頭の中はパニック状態だったんだろうと思うけど
そんなにも過敏に反応するとは思わなかったからこれは奈々実さんからなんて期待出来そうもないかも……
なんてオレはすでに諦めムード。

「奈々実さん……」

オレに背を向けて寝てる奈々実さんを後ろから抱きしめた。

「すぅ……」
「熟睡か」

奈々実さんの寝息を聞きながら項に顔をうずめてくすりと笑う。
片腕で抱きしめた奈々実さんは暖かくて癒される。

以前絢姉さんと一緒に寝た時には感じなかったこの心地よさは何なんだろうといつも思う。

でもその答えはわかってる……それは相手が奈々実さんだからだ。


次の日からオレは予備校の冬季講習が始まって暫くの間奈々実さんと過ごす時間が減った。
でもそれはこれから先一緒にいる時間を考えればそれはほんのちょっとの時間だ。

「希望する大学今のままなら大丈夫だって。安心した?」

彼が隣で歩きながら私を覗き込んでいつもの言い方と無表情な顔で言う。

「本当に?」
「本当」
「その言い方と顔が怪しいのよね!もう少し嬉しそうな顔で言えないの?」
「だから生れつき」
「こう……ニッコリ……」

両手の人差し指だけを使って彼の口の両端を引き上げる。

「痛いって」
「どうでもいい時は笑うくせに」
「そう」
「そうよ!自覚ないの?」
「さあ」
「!!」

私は心の中で 『まったくもーー!!』 と叫んでた。


今日は大晦日……奈々実さんと2人で学問の神様なる神社に参拝に来てたりする。
藁にも縋る思いって奈々実さんは言うけどオレは納得いかないんだけど?そこまで成績悪くないし。

そのまま初詣もするつもりで2人の初めての年越しを迎えようとしてる。

「お守りも買うわよ」
「……」

最初から買う気満々の奈々実さんだから異義申し立てはしないけどオレは神様とかあてにしないんだけど……

「運が強くなるかもしれないでしょ!」
「?」

奈々実さんが言うにはお守りを持ってたおかげで事故を避けられたり不思議なタイミングで
助けられたり2択を選ぶ時の運とか上がりそうとかじゃんけんに勝てるかもとか……

じゃんけんは試験にまったく関係ないと思うけど奈々実さんの中ではそんなことまで気にするらしい。

確かにこれで大学に落ちたらすべてオジャンだし。
流石に浪人の身での結婚はさけたい。

「お……おみくじ引いてみる?」
「なんで吃(ども)るの?」
「え?だって……これで凶なんて出たら縁起悪いかな?って……でも……」
「でも?」
「え?あ……ううん……まああなたが気にしないなら別に……」

「オレには大吉より凶の方が合ってるとか思ったんでしょ」

「え"っ!?」

「図星」
「え?だって……」

何がだってだ。

「おみくじなんて信じないからやらない」
「そう?」
「奈々実さんはやれば」
「え?うーん……」
「きっと当たり障りのない小吉あたりじゃない」
「ムッ!なんかイヤミな言い方ね」
「そう」
「いいわよ!引いてやろうじゃない!」

なんでそんなにムキになるんだか。

おみくじの売ってる場所までズンズンと歩く奈々実さんの後ろ姿を見ながら歩いた。


「…………な…なんで……?」
「普段の行いじゃない」
「う"っ!」

さっきの宣言通り奈々実さんは小吉。ついでにと引いたオレは凶ではなく大吉だった。

「凶じゃなくてよかったね」

いつもと同じに言ったのに奈々実さんはナゼかオレを睨んだ。

「無表情な顔して言われると余計腹が立つ!なんであなたが大吉なのよ!なんか間違ってる!」
「いいじゃん受験生なんだから」
「そうだけど……」

奈々実さんはナゼか納得いかない顔してる。

「あ……始まった」
「本当だ」

夜の境内に除夜の鐘が響き出した。

「新年か……」

奈々実さんがそう呟いて夜空を見上げた。

「奈々実さん」
「ん?」
「今年もよろしく」

向かい合ってた奈々実さんにさっそく新年の挨拶をした。
奈々実さんは突然のことで一瞬戸惑ってる。

「……こちらこそ今年もよろし……」
「チュッ ♪ 」
「!!」

新年の挨拶で触れるだけのキスをしたら奈々実さんが目をまん丸くしてオレを見る。
まあ確かに周りは参拝客がたくさんいたからきっとそんなのを気にしてるだろう。

「奈々実さんからは新年の挨拶のキスはなし?」
「だっ……だだだ……誰がするもんですか!!このエロ高校生!!周りよく見なさいよね!!」

なにもそんな露骨に嫌がらなくたって。

「そう」
「そうよ!」
「奈々実さん露店でなにか買おう」
「え?」

急に話題を変更して奈々実さんは不満顔。
そんなのオレは気にしない……いつものことだから。
境内には夏祭りほどではないけど露店が何店か出てた。

「リンゴ飴あるかな」
「!!」

繋いでた奈々実さんの手がピクリとなった。

「なに」
「あ……あっても買わない」
「なんで」
「なんででも!」

なんでだか奈々実さんはオレと目を合わせない。

「あ。あった」

ちょっと先に目当てのお店があった。

「だ……だから買わないって……」
「また半分こね。奈々実さん」

なぜかシブる奈々実さんを無視して見つけたお店に歩きだす。

「だ……だから買わないって……」

「甘くておいしいよ」


嫌がる奈々実さんを引きずるようにオレはリンゴ飴を買いに歩き出した。





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