もっともっとあなたを好きになる



12




「よし! 風呂、入るぞ!」
「「ハーイ♪」」

りゅうちゃんと一緒に暮らすようになって、お子ちゃまたちも泊まりに来るようになると、
一番喜んだのはお風呂でした。
某国民的アニメと似た造りの我が家はお風呂も似ていまして、前のりゅうちゃんの家のお風呂に比べると
4人で入っても余裕だったりします。
祖父母が健在だったころに水回りをリフォームしたので、外見は昔の家ですがキッチンとお風呂は今風です。
大きくて広いお風呂はお子ちゃまたちには好評です。
そしてなぜか4人で一緒に入るのが定番です。
もともとはりゅうちゃんとお子ちゃまで入っていたのですが、私も一緒にとリクエストされまして……
りゅうちゃんもなにも言わないし、お子ちゃまには勝てませんので言われるままみんなで入ってます。
ときどき私やお子ちゃまたちに見えないように、ニヤッと笑っているりゅうちゃんを見たことがあります。
お子ちゃまたちの手前イヤらしいことはしませんが、きっと私やお子ちゃまたちには言えないようなことを考えているんではないでしょうか。

楽しいお風呂の時間が終わり、りゅうちゃんとお子ちゃまたちは居間に向かいます。
私はみんなの飲み物を用意するためにキッチンに向かいました。
冷蔵庫からペットボトルを出して、コップを出そうと立ち上がるとクラリと立ちくらみが。

「ひかり、手伝う……」

ちょうどりゅうちゃんがキッチンに来たときだったでので、サッと抱き抱えてくれてよろめいただけで済みました。

「どうした? 大丈夫か、ひかり」

心配顔のりゅうちゃんが、上から覗き込んでいました。

「大丈夫です。ちょっと立ちくらみがしただけですから。少し長湯しすぎたのかもしれません」

りゅうちゃんを心配させないように笑顔で答えます。

「大丈夫じゃないだろ。顔色も悪いじゃないか」
「え? そうですか?」
「それに最近疲れてるんじゃないのか? 溜息も頻繁についてただろう」
「そ、そうですか?」

たしかに溜息の数は増えていたかもしれませんが、まさかりゅうちゃんに気づかれていたとは!

「べ、別に身体が疲れているわけではないですよ? ちょっとだけ、怠いというか……気分が上がらないというか……」
「身体が怠い? 熱でもあるのか?」

言いながら自分の額に手を当てつつ、私の額に手を当てます。

「んー熱はなさそうだな」
「病気じゃありませんよ。風邪も引いてないですし」
「そうか? じゃあ一体…………ああーー!!」
「りゅうちゃん!?」

りゅうちゃんが自分の口を手の平で押さえて、叫び声を上げました。
いきなりで私はびっくりです。
どうしたんでしょう?

「ひかり!」
「は、はい?」
「ちょっと待ってろ」
「え? りゅうちゃん!?」

りゅうちゃんはひとりワタワタと慌てて、キッチンから飛び出して行きました。
それはそれは今まで見たことのない慌てっぷりで、なにやら出かけるようです。
今からですか?

「りゅうちゃん?」

玄関に向かうりゅうちゃんのあとを追いかけます。
本当にどうしたんでしょう?

「りゅうちゃん?」
「どこいくの?」

お子ちゃまたちも気づいて、玄関に走ってきました。

「ちょっと出かけてくるから、ちゃんとカギ閉めて」
「りゅうちゃん?」
「じゃあ行ってくる」

りゅうちゃんはシュタッと片手を上げると、玄関先に置いてある自転車に跨がってものすごい勢いでこぎだしました。
いつもは車を使うのに、急いでいたからでしょうか?
駐車場のない我が家なので、ご近所に駐車場を借りているのですが、そこまで行くのも時間が惜しかったんでしょうか?

「うおりゃあああああ!!」

という雄叫びのような声が聞こえてきます。
もしかして、立ち漕ぎしてます?

「どうしたの? りゅうちゃん」

藍華ちゃんが私の腰にしがみつきながら、走り去っていくりゅうちゃんを見ています。

「さあ……急に出て行ってしまったんです」
「ふしんしゃでつかまらなければ、すぐにかえってくるんじゃん。ぶっそうだから、はやくカギしめようぜ、ひかり」

克哉くん、なんてクールなんでしょう。

「はい、そうですね」
「ひーちゃん、のどかわいた〜」
「おれも〜」
「あ! そういえば、飲み物を出そうと思ってたんですよ」

色々あったもんですから、すっかり忘れてしまってました。

「すぐ用意しますね」
「わたし、てつだう♪」

さすが女の子です。

「ありがとうございます」
「おれだって、てつだうぞ!」

克哉くんも、負けじとお手伝いを買って出てくれました。
ふたりともとてもいい子で、私は嬉しくなります。
なので、ふたりの頭を撫でてあげました。
そんな私を、ふたりは嬉しそうに笑って見上げてくれます。
本当に可愛いです。

それから20分程して、りゅうちゃんが帰ってきました。
カギをちゃんと閉めるように言っていたのに、りゅうちゃんはカギを持っていっていなかったみたいです。

「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……」
「お……お帰りなさい……」
「げほっ……ゴホッ……た…だ……いま…」
「大丈夫ですか?」

りゅうちゃんはコクコクと何度も頷きます。
帰ってきたりゅうちゃんは汗ダクで、息も苦しそうです。
せっかくお風呂に入ったのに意味がありません。
りゅうちゃんが帰ってきたとき、またあの雄叫びらしきものが聞こえて、急ブレーキの音と
自転車が乱暴に停められた音なんかもして、りゅうちゃんの慌てっぷりが目に浮かびます。
本当にどうしたんでしょう?
お子ちゃまふたりは、りゅうちゃんのその姿を無言で見つめています。
なにを思っているんでしょう。

「げほっ……ひかり……これ……」
「はい?」

目の前にビニールの袋が差し出されます。
ビニール袋に書かれているお店のロゴはドラックストアのものです。
しかも、とても軽いです。

「?」
「それ使って、確かめてきて」
「え?」

なにを確かめるんですか?
りゅうちゃんを見ると、コクンと頷きます。
なにが入っているのかと中を覗くと……

「!!」

そこに入っていたのは…………妊娠検査薬じゃないですか!









Back      Next








  拍手お返事はblogにて…