Love You ! 番外編 勘違い症候群☆



03




「フウーーーー」

溜息まじりでタバコの煙を吐き出した。

アレは……やっぱ拒否されたんだよな。

『……ちょっ……と……疲れてて……ごめんなさい』

今までどこかけだるそうでも拒否の言葉を聞いたことがなかった気がする。

『眠いです……』
『ダメですぅ……』

そんな言葉を言われたことはあるがそれでもそれが口だけだとわかるから
そのまま智鶴を抱いたことは何度もある。

でも……あのときの智鶴は明らかに俺に抱かれるのを拒んでた。
だから俺もいつものように智鶴には手を出せなかったんだからよ。

「…………」

やっぱ今回のキスシーンで機嫌が悪いんだろうか?
だとしたら……謝ればいいのか?いや……それは違う気もする。

今日出てくるときにいつもの言葉を智鶴に言った。

『智鶴が好きだ。智鶴だけを愛してる』

抱きしめて俺の気持ちをいつも以上に込めて言ったつもりだ。

なのに俺の腕の中から見上げる智鶴の顔はどこか辛そうな困った顔だった気がする。

「ハアーーーーー」

ダメだ。
出るのは溜息ばっかだ。

「幸せが逃げちゃいますよ」
「あぁ?」

振り向けば今回の共演者……俺の女房役の"白鳥晴奈”がクスクス笑いながら立ってた。
背中まである髪をひとつに縛って小奇麗な印象が好感を呼んでるらしい。
歳は24か5だったはず。

「おはようございます。鏡さん」
「おはよう」
「どうしたんですか?溜息なんて鏡さんらしくないですよ」
「そうか?」
「やっぱり可愛い奥さんができると心配事が増えますか?」
「そういうわけじゃねーよ」

ホントはドンピシャだけどな。

「おはようございます。鏡さん白鳥さん」
「あ!おはよう〜〜幹久君。彼女とうまくいってる?」
「ちょっと!開口一番その話題って……やめてくださいよ」
「だって気になるんですもん」
「ここ数日会ってないですよ。お互い時間合わなくて」
「まあこの仕事してたらね〜〜最近深夜まで撮影だしね」
「彼女も仕事あるし夜中に会いに行くわけにもいかないし……メールも大分時間ズレて返信だし
電話もタイミングが合わなくて……もう無理ですかね?」
「うわ〜〜もしかしてもうあきらめモード?」
「はは……そういうワケじゃないんですけど……
その上浮気してるんじゃないかなんて疑われたら落ち込んでも仕方ないでしょ?」
「へ?疑われてんの?っていうか疑われるようなことしてんの?」
「してないですよ!!でも彼女から見るとこの世界って浮気しやすいって思ってるみたいで」
「あーーあるよね。私もそれで別れたクチだもん」
「え?白鳥さんも?」
「本当に仕事なのに終わった後共演の男優と浮気してるんだろうとか挙句にはマネージャーと
デキてるんじゃないかなんて疑われたときもあったし」
「はあーーーー悲惨ですね」
「でしょ?そんなに乱れてるように見えるのかしらね?失礼しちゃうわよ。だからここ何年か寂しい独り身よ」
「上手くいってる人はいるんだけどなぁ……それって巡り合わせの問題ですかね。ね!鏡さん」
「……は?」
「ヤだな〜〜話聞いてませんでした?」
「悪りい」
「鏡さんはね今可愛い奥様のことで頭が一杯らしいのよ」
「うわっ!ごちそうさまです」
「別にそんなんじゃねーって」
「鏡さんのところはどうやって知り合ったんですか?誰かの紹介?」

香川の野郎がここぞとばかり聞いてくる。

「違う。たまたま飲みに入った店で隣で飲んでたんだ」
「へーースゴイ偶然ですね。で鏡さんから声かけたんですか?」
「多分。あんま憶えてねーけど酔ってた智鶴に先に声かけたのは俺だ」

そう確かあんまりにも酔ってた智鶴が気になって先に俺が声をかけた。
そのあとはお互い調子に乗って飲み続けたから記憶が曖昧なんだが……

お互いの記憶を繋ぎ合わせてやっとあのときの話が組み合わさったはず。

「そんで結婚ですもんね。やっぱ出会うべくして出会ったってことですか」
「やっぱりそういう人とは勝手に会わせてくれるのかもね。待ってったらやって来るかしら?そんな出会い」
「でも部屋にこもってたらやっぱ無理っしょ?少しは自分からも動かないと」
「そうよね?」

なぜか朝から恋愛討論なんかが始まって俺はサッサと離脱させてもらった。
俺と智鶴の話をこのふたりにする必要なんてないしハッキリ言って今の俺はそれどころじゃねぇ。

「ふーーーー」

新しく点けたタバコの煙をまた溜息まじりで吐き出た。
早く帰れる日があったらちゃんと智鶴と話し合わなきゃいけねーかもな。

さすがにメールや電話で話すことじゃないし夜中に寝てる智鶴を起こしてまではしたくねぇ。

いつの間にか香川が白鳥に恋愛相談し始めたころスタッフの撮影開始の声がかかった。





「うぅ……」

朝ベッドから起き上がるとジンワリとこみ上げてくる鳩尾の不快感。
吐くわけでもないけど軽くムカムカとして違和感を感じる。

これは……確実かもしれない。
噂に聞く"つわり”というものかしら?

「はあ〜〜〜〜」

なんとか立ち上がって着替えてキッチンに向かう。
冷蔵庫を開けて冷えた烏龍茶を飲むと少し鳩尾がスッキリしたような気がした。

朝ごはんの支度をしてレンジさんを起こした。
遅くに帰ってきたのに私よりも早く家を出るレンジさん。

本当にお疲れ様です。

そう心で思っても今日はずっとムカムカとしてて顔がうまく笑えてるか自信がない。
自分でも頼りない笑顔かも……なんて思う。

だからいつものようにレンジさんが 『智鶴が好きだ。智鶴だけを愛してる』 って言ってくれたのに
私は不快に感じる吐き気を堪えてて情けない笑顔を返したかもしれない。

だって私を見下ろしてるレンジさんの顔が一瞬ピクリとなった気がするから。

ごめんなさいレンジさん。
でもきっと今日嬉しい報告できると思うから……このあと病院に行ってきますから。


ちゅっと触れるだけのキスをしてもらって私は手を振ってレンジさんを送り出した。

その後に私の朝の態度でレンジさんが昨日以上に悶々と悩んでたなんて……

病院に行くことで頭が一杯だった私はコレッぽっちも気づくことができなかった。





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