Love You !



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「チッ…」

明日取引先に提出する企画書を今欲しいと上司に言われ呼び出された。
パソコンに保存されてるファイルからプリントアウトしてイライラしてる上司に渡す。
ったく明日の朝にって言ってたくせによ!

あれから40分は経った…あの女まだいるんだろうか…

腕は縛ったがそれをどこかに縛り付けるのを慌てて出て来て忘れた。
あのままなら逃げ出すのは可能だ。
まああんな放心状態じゃ逃げ出すかどうかわからないがもし逃げ出してたらネタを売るだけだ。


さっきのホテルの部屋に戻ると女はまだベッドの上に横になったままだった。
ふん完璧に諦めたらしいな。

「待たせたな。」

ベッドに近付いて女の肩を掴む。

「………や…やめて下さい…考え直してもらえませんか?」

女が俯きながら呟いた。

「はあ?今更だろ。ここまで来て何言ってんだよ覚悟決めたんだろ。」
「でも…やっぱり嫌です…お願いします…」
「じゃああのネタマスコミ関係にバラすぞいいのか?」

女の肩を掴んで起こす。

「わかってるのか?そしたら鏡レンジはお終いだぞ。嫌だろそんなの?」

「………」
「だったら大人しくオレの言う事聞いた方が利口だって。」
「………」

女が俯いて黙る。

「さてと…まずは脱いで貰おうか?」
「え?」
「自分で脱げよ。」

縛ってた紐を解いて肩を押した。
ヨロヨロとよろけて止まる。
ポケットから携帯を出して録画の準備をして女に向ける。

「!」
「記念に録ってやるよ。ほら早く…」

これで今度はこれを使って…

「こっちも今のを記念にさせてもらいましょうか。」

「!!」

バン!と勢い良く部屋の中にあるクローゼットの扉が開いて中から女が出て来た!

「なっ!何だお前!!」

「『鏡レンジ』のマネージャー黒柳恭子です。」

「黒柳さん!」
「大丈夫ですか?智鶴さん上手くいきました。頑張りましたね。」

智鶴さんを自分の背中の後ろに庇って男の真正面に立つ。

「何?マネージャー?なんで…」
「貴方がマヌケだからじゃないですか?」


30分前……

「まったく…軽々しく智鶴さんに会いに行くなって言ったでしょ!だからあんな写真撮られるのよ!」
「あの日に智鶴に会わなきゃダメだったんだよ。」
「ホントレンジは計画性が無いんだから…」

記者会見の会場になってるホテルの一室でさっきからマネージャーの黒柳に文句の言われっ放しだ。

「今更だ。」
「彼女だって心の準備ってものがあるでしょ!あの小娘の騒動だってあったのに。」
「お蔭でこうやって交際報告も出来るんだから俺は別に良かったと思ってるぜ。
これで晴れて公認の仲だ。」
「もう…で?智鶴さんは?」
「俺の部屋で待ってる。」
「今日はお祝いなんだから3人で外で食事しましょう。」
「あぁ?」
「何よその嫌な顔は!これは決定事項だから。智鶴さんには私から連絡しておくからレンジはもう行った方がいいわ。」
「ああ…」
「まだ智鶴さん会社から出たばっかりかしら?」
「この時間なら多分。」
「行ってらっしゃい。」

そう言って部屋から出ようとする俺に黒柳は軽く手を振りながら携帯を取り出した。


智鶴さんと話すのは久しぶり…あの後は私も忙しくてなかなか彼女に話も出来なくて…
ちょっと大人しすぎるのが気になるけどレンジはあんなおっとりしてる子がいいと私は思う。
恋愛に関して気の強い相手だとレンジはどうも相手のペースに任せる所があるから…

何度目かのコールで相手が出た。

『は…はい!』
「あ!智鶴さん黒柳です。今大丈夫ですか?」
『く…黒柳さん……私…どうしよう…どうしたら…うっ…』
「智鶴さん?どうしたんですか?落ち着いて手短に話してください。」
『わ…私…ひっく…うぅ…』
「しっかりしなさいっ!泣いていてはわかりません!今何処にいるんですか?」
『え…あ…えっとどこかのホテルの部屋です…』
「ホテル?なんでホテルなんているんです?レンジの部屋で待ってるんじゃないんですか?」
『それが…』

泣きながらの彼女の説明を聞きながらこっちも出る準備をする。
どうやらとんでも無い事になってるらしい…

「わかりました。それならその男もすぐには戻って来ないでしょう。
今からそこに行きますからホテルの場所と名前何ですか?」
『えっと…名前は…』
「その辺に何かホテルの名前が書いてあるものありませんか?」
『あ…あります…場所は駅の近くのホテルだと思います…』

彼女からホテルの名前と電話番号を聞いた。
彼女の会社の駅の近くならこの会場とそんなに離れていない…
車で5分もあれば着くはず…
すでに私は会場の地下の駐車場に来ていて目の前に自分の車がある。
乗り込めばすぐに出れるだろう。

「とにかく外に…」

まずは彼女を安全な場所に…!!

「智鶴さん…」
『はい…』
「心細いのも怖いのもわかりますが…私が行くまでその部屋に居てもらえませんか?」
『え?ど…どうしてですか?』
「私にちょっと考えがあります。どうですか?大丈夫ですか?」
『わ…わかりました…』
「どこか鍵の掛かる場所に隠れてて下さい。今すぐ行きますから。部屋は何号室ですか?」
『206号…室…です…』
「今行きます。」

電話を切った後ホテルに電話を掛けて場所を聞いたら彼女の言った通り駅の近くの1軒だった。

まったく…さっきの話をちょっと聞いても彼女に言いたい事は山ほどあった。
でも今はそれどころじゃ無い…まずは相手の男より先に部屋に着くこと。

信号無視スレスレの速さで目指すホテルに車を走らせた。


ドンドン!! ドンドン!!

「智鶴さん!黒柳です!!」

部屋番号のドアを大きめに叩く。
ホテルの名前部屋の番号…ここでいいはず…

「!!」

中からカチャカチャと鍵を開ける音がしてドアが開いた。

「黒柳さん!!」
「智鶴さん!」

目の前に泣き腫らした目と不安げな顔の彼女…

「男は?」
「まだ戻って来てません…」
「そう…とにかく中に…」

彼女を促して中に入って鍵を閉める。
ベッドに腰掛けさせて私は彼女の目の前に腰を落とす。

「……うっ……」
「泣かない!泣き止みなさい!今はそれどこじゃありません!」

可哀想だとは思ったけど今はしっかりしてもらわなければ。

「…は…い…」

彼女は何とか落ち着きを取り戻して私を見る。

「後で詳しい事は聞きますけど今はやる事があります。」
「な…なんですか?」
「これは立派な強要罪です。だからしっかりとその証拠を押さえます。」
「………」
「なので智鶴さんにはもう少し頑張ってもらわなければいけませんが大丈夫ですか?」
「……私は…何をどうすれば?」
「その男にもう一度ハッキリと貴女にこの行為を強要したと言う事を言わせ下さい。」
「………」

智鶴さんは黙って私を見てる…気付けばまだ手首が縛られたままだ。
きっと解く事も忘れてるんだろう…

「わかりました…黒柳さん……やってみます。」

ちょっと震えてる声だけどちゃんと考える事も出来るから少しは落ち着いたんだろうと思う。

「解いてあげたいですが…もう少し辛抱して下さい。」

そう言って智鶴さんの縛られてる両手をそっと握った。

「大丈夫…です。」
「わかりました。もう安心して下さい。私がいますからもうその男に何かさせる事は絶対しませんから。
私は智鶴さんを必ず護ります。大丈夫ですから落ち着いて行動して下さい。
そして私が2人の前に現れたら智鶴さんは私の傍に来て下さい。いいですね?」
「はい。」
「じゃあ私はそこのクローゼットの中に隠れてこの携帯でその場面を録画します。」
「はい…」
「大丈夫です。2人なら出来ます。」
「はい。」
「じゃあいつ男が戻るかわかりませんので私はもう中に隠れます。
智鶴さんも男が出て行ったままの姿勢で待機してて下さい。」
「はい…」
「!」

そう言うと彼女は自分の足を結ばれた腕の間に通した。

「そんな風に縛って行ったんですか?」
「はい…」
「…………」
「黒柳さん?」
「な…何でもありません…では…」

そう言うと私はクローゼットに身体を滑り込ませる。
丁度大人1人くらいは立って入れるほどのスペースがある。
扉はジャロジーになってて隙間から室内も見れるし携帯でも十分録画出来るだろう。

「智鶴さん。」
「はい…」

彼女はモソモソとベッドの上で横になろうとしてる。

「後でお説教です。覚悟してて下さい。」

「え?あっ…は…はい!わかりました……本当に…ごめんなさい…」

そう彼女に宣言して扉を閉めた。

それにしても…なんてマヌケな男なのかしら…あれじゃ逃げられたっておかしくないのに…
ツメが甘いわね…

まあそのお蔭で今回は助かったけれど…智鶴さんもどうして逃げなかったのか…
大人しいとかそう言う問題じゃ無い…いくら脅されてたと言ってもちょっと考えれば
わかりそうなものだと思うけど…

本当は警察に通報と言うのも考えたがやはり思い止まってしまった…
出来るだけ表沙汰にはしないで穏便に済ませたい。

レンジのこれからの事もあるし彼女だってこれからの事がある。
後で警察に通報するにしても遅くはないだろうと思った。


そんな事をクローゼットの中でブツブツと呟いていたらドアの鍵がガチャリと鳴った。





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