Love You !



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『お兄ちゃん大好き。』

小さかった頃の智鶴はいつもそう言って僕に笑い掛けてくれた。

小さい頃からちょっとドジで頼りない感じがしないでもなかった智鶴…
美人と言うわけでも無いがソコソコ可愛いと言える顔立ちだと思う。

智鶴が中学に入学した頃から何となくそんな智鶴が危なっかしいと思える様になった。

歳が離れてるせいか中学高校は一緒には通えなくて…
それでも中学や高校時代の友達に 『敦の妹って素朴でいいよな〜』 なんて言われてた。

だから僕のいない所の中学や高校でそんな男共に智鶴が狙われやしないかと
いつもハラハラドキドキしていた…

でもそんな心配も余計な事だったのか智鶴はずっと誰とも付き合わず
短大まで無事に卒業した。

そして社会人1年生になって僕はまた別の心配が沸き起こる。

自分も会社に勤めてるからわかる…
社会には下心ありありの男共がいることを…

会社の上司だって油断ならない。
逆に立場を利用してどんな無理難題を智鶴に押し付けるかわからない。

「セクハラ」 だって有り得る…
しかも智鶴の事だ…そんな事があってもきっと誰にも相談出来ずに
ぐっと我慢してるに違いない…そんな事を思うといても立ってもいられなかった…

そう思っていても自分も大学を出て社会人になると家を出なければならなくなった。
仕事は旅行会社の添乗員だったから1度旅行に付き添うと1週間は戻って来れない時もある…
全国に展開してる旅行会社だったから転勤もあった。

でも智鶴が短大に入った年僕がいない事をいいことに智鶴は一人暮らしを始めた。
僕に内緒で話を進めて…そして就職先も実家からは通えない場所でそのまま一人暮らしを続けてた。

本当は一緒に住めたら良かったんだけど自分の仕事柄留守がちだったし
智鶴が大丈夫だと言い張るし…
心配な反面少しはしっかりもして欲しいと思って今まで黙って見て来たが…

なんであんな男と付き合いだしてるんだ??

最初は全く知らなかった。
両親も智鶴から口止めされてたし…でもだからって本当にこの僕に内緒にするなんて…
テレビでチラリと見たアイツの記者会見もまさか自分の妹が相手だなんて何も知らない僕には分かるはずもなく…

そんな記者会見を挟んで僕は海外への旅行に飛び回ってたから…

そんな僕の所に親戚のオバサンから電話が入った。
前々からご主人と旅行をしたいと言っていてやっと時間の余裕が出来たから
どこか良い場所はないかとの相談の電話だったんだけどそのオバサンが何の気なしに言ったんだ…

『智鶴ちゃんおめでとうねぇ〜あんな素敵な俳優さんとのお付き合いなんて羨ましいわ〜ふふ。
それにお父さんに聞いたわよ〜近々結婚もするそうじゃない。あなたも淋しいかもしれないけど素直に喜びなさいよ。』

なぁ〜にぃーーーー!!結婚だと?俳優と結婚だって??
聞いてない!!僕はそんな事一っ言も聞いてないよーーーーー!!
しかも交際通り越して結婚ってなんだ?僕に黙ってそんな事!許すかーーーーっっ!!

やっと業務をこなして実家に戻る。
両親を追求して智鶴が俳優の 『鏡 レンジ』 と言う奴と結婚を前提に付き合ってたとその時初めて告白された。

なんでそんな大事な事黙ってると問いただすと智鶴たっての希望だったらしい。

智鶴……なんで相手は俳優なんだ?芸能人なんだ?
しかも調べてみれば元ヤンキーでそしてとんでもない武勇伝を持つ男だそうじゃないか!
つい最近高校生の女優と噂が流れてたし…どうせいい加減な男に決まってる!

お酒の席でお互い隣同士だったって?
きっと飲めない智鶴にお酒を飲ませて良い様に弄んだに違いない!

許さない…そんなチャラチャラした男に智鶴を任せるわけにはいかない…
智鶴が傷付いて捨てられる前に僕が智鶴の目を覚まさせてやらなきゃ!

待ってろ智鶴ーーーー!!そんな男の毒牙からお兄ちゃんが守ってあげるからねーーーー!!


「という訳で仕事も休みを貰ってこうしてやって来たと言う訳だ智鶴。
だからゆっくりとお兄ちゃんと話し合おうね。」

「………そんなに仕事休んで大丈夫なの?」

ニッコリの満面の笑みで私に笑い掛けるお兄ちゃん…

「今まで真面目にやって来たんだ。有給も溜まってるし大丈夫。」

レンジさんが帰った後ちょっと落ち着いたお兄ちゃんとテーブルを挟んで話してる。
今度はちゃんと淹れたコーヒーも飲みながら…

「お兄ちゃん…レンジさんの事なんだけど…」
「今日はもう疲れたから明日にしよう。あ!お土産あるんだよ。前仕事で行った時に
買ってたんだけどなかなか渡しに来れなくて。明日智鶴休みだろ?一緒に出掛けよう。」
「お兄ちゃん……」

無理強いはしない方が良いってレンジさんも言ってからそれ以上は私も話さなかった…
それに私がお兄ちゃんに勝てるかどうか…ちょっと自信がなくて…

でも自分の事だから…黙ってた私が悪かったんだから…

ちゃんと分かってもらおうと心に決めた。



「はい…」

約束通り夜にレンジさんから連絡があった。

『俺だ…どうだ兄貴は?』
「今お風呂に入ってます…でもこっちが話そうとするとすぐに話をはぐらかして…」
『そうか…まだダメか…』
「ごめんなさい…でもまた後でそれとなく話してみます。」
『智鶴…』
「はい。」
『悪いが明日行けそうにない。』
「え…?」
『前撮ったシーンが撮り直しなった。それに前から入ってる撮影もある。』
「あ…はい…わかりました。」
『……大丈夫か?』
「え?だ…大丈夫ですよ!自分のお兄ちゃんですから扱いには慣れてます。」
『そうか?なるべく早く会える様にする。』
「はい…わかりました…」
『じゃあ…な。おやすみ。』
「おやすみなさい…」

ちょっとの間があって通話が切れる…

やっぱり電話ってこの間が嫌だな…切った後のなんと言えない気分の憂鬱さったら…

「アイツからか?」
「お兄ちゃん!」

いつの間にかお兄ちゃんがお風呂から出て傍に立ってた。

「電話くらいでそんな暗い顔するんなら早く別れてもっと楽しい話をしてくれる人と付き合いな。」
「べ…別に辛くてそんな顔してたんじゃ無いから!」
「じゃあ何?」
「………何でもないわよ!でも辛いからじゃない事は本当だから!
私レンジさんと別れる気なんて無いから!お兄ちゃんも早く仕事に戻った方が良いわよ。」
「折角の休暇だよ。しっかりと1週間休むよ。ほら智鶴もお風呂入っておいで。」
「…………」

お兄ちゃんに促されてお風呂に入る支度をする。

そう…辛くてあんな顔してたんじゃない…会いたくて…会いたくて…

でも…会えないから…切なかっただけだもん……

レンジさんに会いたかったの…それだけ……

レンジさんに……会いたいな……




「しかしまさか撮り直しなんてねーもう参るわ。」

次の日の撮影で俺の同僚役の俳優がブツブツと文句を言ってる。

本当は俺だって文句を言いたいが監督が出来上がったモノに納得いかねぇって言うんじゃ仕方ない。

「はぁ…」

思わず小さな溜息をつく。

「へえ〜鏡さん珍しいですね溜息なんて。お疲れですか?」
「あぁ?」

相手が意味ありげにニヤリと笑う。

「色々と…な…」
「良いですよね〜今一番幸せな時なんじゃないっすか?」
「一番ねぇ…これで一番は無いんじゃねーの?」

こんな結婚前提に付き合いだしたくらいで…

まあ一応プロポーズしてOK貰った時は今までで一番嬉しかったが…

今は何でこんな事に…と思うばかりだぜ…まったく…
智鶴からあんな兄貴がいるなんて聞いてなかったからな…

そうだよな…結婚ってなると相手の親や兄弟も絡んでくるんだよな…

ウチの親は俺のやる事に今更口出したりしないし俺には気を使う兄弟もいねえから…
ネックはあの兄貴のみ…か…

この分じゃ明日も時間が取れるかわからねぇな…こんな時に限って……

「はぁ…」

俺はまた小さく溜息をついた。





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