Love You !



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セロリをテーブルに置いたまま俺は頭からシャワーを浴びて黙りこくってる…

首筋についてた口紅はこれでもかって言うくらいに綺麗に洗い流した。

「智鶴……」

相当ショック受けたんだろうな……
だよな……もし逆に智鶴の首筋にキスマークなんて付いてたら…俺だって…

イヤイヤ……俺のはキスマークじゃねーだろ?
って同じ様なもんか??

なんてそんな事を考えてたらシャワーでものぼせそうだった。


風呂から出てあの問題の昨日着てたワイシャツを洗濯機に叩き込んで洗う。
廻ってる洗濯機の蓋の上に手を着いてジャブジャブと鳴る水の音をボーっと聞いてた…

昨日……俺は一体どうしてたか……


ドラマの最終回で朝から夕方までテレビ局の番宣で動き回ってた…

それが終わって打ち上げ会場になってるスタジオの一室に向かって…
スタジオに入ってすぐに打ち上げが始まって……でも最初は皆そんな羽目を外したりはしてなかった…

スタジオの中に設置された大きなテレビにドラマの最終話が映し出されて…

ふと…智鶴の事を思った…
智鶴は今…このドラマを1人で見てるんだろうと……

本当なら一緒に居た方が良かったのかもしれな…

『大丈夫ですから……』

智鶴はそう言ってたが……それが本心からだったのか…


「レンジさ〜ん ♪ いよいよですよ〜」

共演してた俺より年下の俳優が俺の隣でニコニコしながらそんな事を言う…
画面に視線を戻せばラストの一歩手前あたりだ。

「いいっすよね〜あんな綺麗な女優さんと芝居とはいえ……くぅ〜〜〜」
「なんだ?もう酔ってんのか?仕事だろうが?そんな下心なんてねぇよ」
「いいな〜〜オレもそんな風に言ってみたいっすよ〜〜まだ1度もラブシーンなんてないんすよ」
「別にそんなのだけが仕事じゃねぇだろ?」
「そうですけど!やっぱ普段じゃ絶対無理そうな可愛い子相手なんてあったら
やっぱ素直に嬉しいっすよ〜 ♪ 役者やってて良かった〜って思いますよ ♪ イテっ!!」

バキン!と野郎の頭に拳を一発入れた。

「不純な動機で仕事すんじゃねぇ!」
「鏡さん」
「おう」

声を掛けられてイスに座ったまま振り向くと今回の相手役だった兎束(totuka)が笑顔で立ってた。

「お疲れ様でした」
「兎束もな」
「でもこんな所にいていいんですか?」
「あ?」
「だって…彼女1人なんですよね?」
「ああ…」
「大丈夫…なんですか?」
「まあ一応話しはした…大丈夫とは言ってたが…」
「まあ仕事ととして受け止めてくれれば…大丈夫だと思いますけど
やっぱり一般の方にはちょっと納得出来ない気持ちもあるかもしれませんしね…」
「普通の相手と結婚してる役者なんて一杯いるからな」
「ですけど…やっぱり複雑かも…交際宣言されたばかりなのに…」
「兎束が気にすることじゃねえよ」
「そうですけど……」
「やっぱ……気になるもんか?仕事でも?」
「私達は仕事で割り切れますけど…でも役者の中でも割り切れない人もいるくらいですし…」
「…………」

段々と俺は心配になってくる…
そう言えば惇の所の嫁さんはどうなんだろう?
あいつなんてキスシーンどころかベッドシーンまでやってるしな…
ただあいつの嫁さんは一般に入るんだろうか?
数ヶ月間だったが惇のマネージャーをやった事があるし…一緒に考えちゃダメか?

「…………」

「だったら電話してみたらどうですか?」

俺がブツブツと呟き始めたのをずっと見てた兎束がそんな提案をしてきた。

「電話?」
「終わってからでもいいんで 「気にするな。好きなのはお前だけだ!」 とか言ってあげれば ♪」
「なっ!?」

まるで何かの役になりきってるかの様な仕草で最後はニッコリ笑顔だ。
その男のセリフは俺か?俺になり切ってんのか??兎束!!

「え?何でそんなに驚くんですか?」

俺のあまりの驚きに兎束が納得いかないと言う顔をした。

「そ…そこまで言うのか?」
「そこまでって…普段近い事とか言ってないんですか?」
「………」

そう言われて記憶を掘り起こす…
確かにそう言う 「好き」 と言う言葉は今まで言った事はある…
それに近い言葉や違った表現でもある……身体で現した事もあるが……

ただ……その言葉を言うにはそれなりの流れと言うか……
雰囲気と言うか…そう言うものがあって…
だからいきなりその言葉だけを言った事はねえと思う…

しかもそれだけを電話で言えってか?……無理だ……俺には無理だと思う。

「なんだか心配ですね〜鏡さん!本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だろ…」

そう返事をしながらも段々と胸騒ぎが起こって来てるのは事実で…
放送が終わったらやっぱり智鶴に電話しようかと思ってる俺だったりするんだが…

結局その後…放送終了間近にドラマのプロデューサーやらスポンサーやら…
かなりの人数が集まって…ドラマが終わった瞬間皆で乾杯して次から次へと酒を飲まされて…
智鶴に電話出来ないままになった…



「だよな?でもその辺りから記憶が曖昧なんだよな……」

俺はそんな事をソファに座って片手にコーヒー片手は自分の額に当てて記憶を辿ってる…

俺の座ってるすぐ横には役に立たない携帯が転がってる。
智鶴の奴…未だに携帯の電源を入れてねえ……

何度掛けても繋がる気配がねえ……
携帯も相手に繋がらなければなんの役にも立たねえ……使えねえ……

あの時傍にいたのは兎束だった……

まさかあの口紅は兎束のモノか?
でも兎束がそんな事するとは思えねえんだよな……

俺はその後も殆んど思い出せない記憶を辿ることに専念する事になった。



「はあ〜〜」

私はさっきからずっと同じ喫茶店で時間を潰してる…
潰してるって言うか…他に行くあてがないのが事実…

「レンジさん…ご飯食べたかな…」

あの時は訳がわかんなくなっちゃって…飛び出しちゃったけど…
ちょっとは簡単に食べれるもの…置いてくれば良かったかな…

ってダメダメ!怒ってるんだから!私は!!

「………でも…今日はレンジさんお休みだったのにな…」

本当なら午後から一緒に出掛けるはずだったのに……
バックから携帯を取り出して両手で握りしめる…きっと電話掛けて来てるんだろうな…

「いつまでもこのままってわけにはいかないよね…」

でも…もしレンジさんから電話が掛かって来たら…私…ちゃんと話せるかな……

震える手で携帯の電源を入れた。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

「きゃっ!!」

電源を入れた途端携帯が鳴ったからびっくりして悲鳴が出ちゃった。

「あ…ごめんなさい…」

周りの人が一瞬私の方を見たから思わず謝ってしまった…
だから相手も確かめず電話に出ちゃった。

『智鶴さんですか?お久しぶりです黒柳です』
「黒柳さん!?」

本当に久しぶりで…でもいつも忙しい人だからしょうがないんだけど…

『本当ならもっと早くにお電話差し上げられたら良かったんですけど…
なかなか時間が取れなくて……』
「いえ…そんな…黒柳さんお忙しいですもん…」
『それで…今少しお時間ありますか?ちょっとお話したいんですけど?』
「え?私に…ですか?」
『はい』

え?もしかしてレンジさんから連絡がいったのかな??

「あの…」
『はい?』
「レンジさんから…何か聞いてますか?」
『レンジですか?いいえ…レンジとは昨日の朝から連絡取ってませんが…もしかしてまた何かありました?』

あの一件以来黒柳さんも私の周りには敏感になってくれてるから…
急に声の口調が変わって真剣な話し方になった。

「え?あっ!違うんです!!そんなあんな事は無くて……」
『そうですか?良かった…でも本当に何かあったらすぐに連絡して下いね。絶対力になりますから。』
「………く…黒柳さ〜〜ん……うっ……」

そんな黒柳さんの言葉を聞いて私は思わず涙が溢れて…あっという間に涙声になった。

『え?智鶴さん?どうしたんですか??大丈夫ですか?』


そんな私の事を心配してくれて……

私から今いる喫茶店の場所を聞くと今から行くと電話が切れた。







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