好きだなんて言ってあげない



02




「あ……うっ……んんっっ……」

もう片方の手で後頭部をガッシリと押さえられて、動けないまま何度も角度をかえてキスされる。

「口あけろ」
「や……らっ……んんっ!」

バカ!バカ!!私ってば!!
喋ったら、簡単に颯希くんの舌が私の口の中に入ってきた!!

「……ふっ……うぅ……はぁ」

やっと離してくれたときは、私はもう息も絶え絶えで、膝はカクンと力が抜けてて、
颯希くんが支えてなければ立ってられなかった。

「“絶交” は未だに苦手だ……二度と言うな」
「……はぁ……はぁ……」

子供のころからの決め台詞。

『さっちゃんとはもう絶交するからね!』

口でも行動でも敵わなかった私の、たったひとつの勝てる言葉。

「さっちゃん」
「それも二度と言うな」

嫌がってるのを承知でワザと呼んでやった。
案の定、すぐに否定されてしまったけど……ちぇ。
だって、少しくらいはやり返したいじゃない。

「私、本当に颯希くんのこと好きじゃないからね。だから期待しないで」
「それでも聞かれたら、俺達は付き合ってるって言うからな」
「えぇーーーーなんでいきなり……」
「そろそろいいか、ってな」
「何がそろそろいいの?」

さっきから勝手なことばっかり言って……。

「昔から永愛のことは気になってたんだが、それが女としてなのか幼なじみだからなのか
自分でもハッキリしなかったからな」
「ならどうして?」
「…………」

颯希くんが柄にもなく頭をポリポリ掻いて、私から視線をそらす。

「キモイ」

初めて見る颯希くんの仕草に耐えかねて、思わず呟いちゃった。
だって私の知ってる颯希くんは、意地悪で俺様で迷ったり悩んだりしない人だったから。

「キモイとか言うな!ホントこの俺様にそんなことハッキリ言うの永愛だけだぞ」

クスリとハナで笑われた。
失礼な。

昔から颯希くんには、ズバズバと言ってたかも。
ただ誰かまわず言ってたわけじゃなくて、颯希くん限定だった。
だって、いくら言っても颯希くんは怒ったりしなかったから。

“絶交” だけはダメだったみたいだけど。

最近じゃ話すこと自体あんまりなかった。
だからいきなりの “俺の女発言” は驚いた。
いきなりのキスも驚いたけど。

「はぁ〜お前4組の清原に告られただろ?」

諦めたように溜息をついて、颯希くんが言った言葉に驚いた。

「なんで知ってるの?」

普段おとなしい私は目立つタイプじゃないから、告白なんてものもこっそりとしたものだと思うのに。

「ス……ストーカー?」
「否定はしねぇな」
「!」

してよ、否定!

「そんな露骨に嫌がるな。たまたま小耳に挟んだだけだ」
「そう」

って安心してもいいのか?私!?

一昨日、クラスは違うけど同じ学年の男の子に付き合ってほしいと告白された。
16年生きてきて初めての告白。

返事はまだしてないけど……。

「好きな奴がいるからって断れよ。付き合ってる男がいるでもいいけどな」
「好きな人もいないし、付き合ってる人もいないけど」
「拗ねんな。素直に言うこと聞け」
「なんで颯希くんの言うこと聞かなくちゃいけないのよ。嫌よ」
「もうあいつ等の前で交際宣言しちまったから、他の男となんて無理だろうが。
前よりも輪を掛けて文句言われるぞ。俺という恋人がいながら、他の男とつきあうなんて何様だってな」
「うわぁーーイヤ!それになんか颯希くんこそ自意識過剰の何様のつもり」
「俺様のつもり。っていうか、清原にOKするつもりだったのかよ」

すごいムッとした顔してる。

「さあ……どうだったかな」

まあ断るつもりだったけどね。
だってほとんど話したことなかったから、清原君がどんな人かわからないし。

自分としては告白する前に、ちょっとは友達として話す機会があったなら考える余地があるんだけど、
なにも知らない間柄でそんなことを言われると、私は引いてしまう。

その人がどんなに人当たりがよくていい人でも、ダメになってしまう。
自分でも変なのと思うけど、気持ちがそうなってしまうから仕方ない。

今の私は清原君にはなんの興味も好意もないし、だからってお友達からなんて
告白されたあとからじゃ絶対無理でしょ。
相手は私に好意をもってて、付き合いたいと思ってるんだから。
なにをしても、交際に結びつけられそうでイヤだ。

だからせめて、先に普通に話す間柄になってから言ってくれればいいのに……。

「永愛」
「…………」
「スカートめくるぞ」
「バ……バカァ!!っていうか、それ以前にそれ以上のことしたじゃない!!」
「なに?」
「……うっ……」
「どうした永愛?顔赤いぞ」

もーーー!なにニヤニヤ笑ってるのよ!!

「ひ……人のファースト・キス奪ったくせに!!」
「やっぱそうか。初めてだったか」
「なっ……なによ!バカにしてるの?」
「いや、間に合って良かったな、と」
「間に合った?」
「やっぱ他の野郎と永愛がキスしてたかもしれねえって思っただけで、こんなにも
ムカムカするのはそういうことかと思ってさ」
「そういうこと?」
「まあ俺は初めてじゃねーけど。悪いな、自分の気持ちがハッキリしたのがさっきだから許せ」
「だから……颯希くんとは付き合わないって……」
「明日から一緒に登校しような」
「え?やだ!!」
「俺をおいて先に行ったら、公衆の面前で恥ずかしい目に遭わせる」
「ええーーー!?それって脅しじゃない!イジメだよ!イジメ!!」
「とにかくまずは、清原にさっさと交際は無理だって断れ。あと、帰るぞ」
「颯希くんとは一緒に帰らないって……あっ!ちょっ……」

言った途端身体をグンっと引っ張られた。
階段の壁に押しつけられて、颯希くんの両手と身体で拘束された。

「……颯……」

身体と身体が密着して……。

「や……やだぁ……颯希くん近い!!」
「抱きしめてんだから近いに決まってんだろ。相変わらずちっちゃいな永愛は」

身長も体格も颯希くんとは結構な差がある。
身体だけ大きくなっちゃってさ!!人のこと見下ろさないでよね!!

「んっ……やだってば!耳に息ふきかけないで!!」
「耳に直接話しかけてるだけだろ。感じるのか?」
「気持ち悪いのっ!!」

本当は体中がゾワゾワして変な感じだった。

「今に気持ちよくなる」
「なっ……ならないもん!!あんっ!」

ペロリと耳の周りと耳朶を舐められた。

「可愛い声」
「さ……颯希……くん!!」
「ほら、俺と付き合うって言え」
「い……言わない!!」
「永愛」
「言わないーーーー!!あっ!」

叫んだら、身体がグインと持ち上げられた。

「ひゃっ!!なに?」
「仕方ないな。OKするように身体に教えこませるか」
「え″え″っ!?横暴!!っていうかそれって犯罪じゃないよ!!」
「そのあと付き合えばそんなの関係ないだろ」

なにを調子のいいことを!

「どこ行くの?」

私をお姫様抱っこで抱きながら、颯希くんがスタスタと階段を降りていく。

「保健室」
「え″っ!?」

保健室の白いベッドが頭に浮かんだ。
それをどう使うのかも。

「きゃーーー!!!バカバカ!!颯希くんの変態!!」
「じゃあ俺と付き合うのOKするか?」
「ええ?交換条件!?この非常事態と?」
「OKしたら今すぐはやめてやる。追々ちゃんと段取り踏んでやるけど?」

やるけど?ってなに?
結局は先延ばしってことじゃない!

「同じことじゃないよ!恩着せがましい!!」
「じゃあ観念しろ。大丈夫ちゃんとゴム持ってるし」
「いやーーーー!!不良よ!不良!!エロ高校生!!」
「もともと不良って呼ばれてるから」
「屁理屈言うな!!やだってば!!」
「うるせぇ」
「ふむっ!!」

私の背中に回ってた颯希くんの腕が、私の身体をさらに抱え込むように
ぎゅっとすると、もう腕が動かせなかった。
そのまま颯希くんの腕が上に引き上げられると、勝手に上半身が颯希くんに近づいて
またキスされた。

「……ん……んんっ……はん……ぁ……」

息ができなくて苦しくて、あっという間に暴れる力がなくなって力尽きた。
必然的に口にも力が入らなくなって、さっき以上に舌を絡められて頭の中は真っ白だった。


もう恋愛数値ほとんど皆無な私に、なんてことすんの!颯希くんは!!





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