オレの愛を君にあげる…



03




「あいつヘラヘラしやがって、なんかムカッとくんだよな」

教室の窓際の自分の席に座って、廊下で女子と楽しげに話す椎凪を睨みながら、
クラスメイトの山口が悪態をついた。
椎凪本人は、まったくそんな視線に気づいていないが
どうやら常に女子に構われている椎凪が、気に入らない様子。
モテない男の嫉妬なのか?

「胸糞ワリィ……俺様がシメてやるか」

多少腕に自信があるのか、隣にいる滝田にそう言うと山口はニヤリと笑った。

「でもよ……入学早々3年シメたって噂だぜ。
だから椎凪には誰も手を出さねーんだって……」

どこから仕入れてきたのか、滝田がそんなことを言い出した。

「そんなの噂だろ?あんなヘラヘラしてる奴が強いわけねーって!裏で媚でも売ってんだろ?
大丈夫だって。まぁ見てろよ」

自信満々の顔で、山口は廊下で雑談に笑う椎凪を睨みつけた。



──── その日の放課後の屋上。

決意どおりに実行しようと、意気揚々と山口は椎凪が来るのを今か今かと待ち構えていた。
当の本人はと言うと ────

「こんなところに呼び出して何か用?」

屋上に出た途端呼び出した相手……同じクラスの山口を見て面倒くささ全開でそう言った。
だって本当に面倒くさかったからし、モタモタしてたらバイト遅れちゃうんだよね。

「何か用じゃねーっ!この状況で用事なんてひとつしかねーだろうがっ!!」

余りにも惚けたオレの声に、山口は逆上してる。

「え?まさか告白?」
「ア……アホかっ!!誰がテメェなんかに!!」
「よかった〜君、オレのタイプじゃないし」
「なっ!!ちげぇよ!テメェ見てっとムカムカすんだよっ!いつもヘラヘラ笑いやがって……
そんなに女に愛想振り撒いて構ってほしいのか!ああ?」

ワザとらしく真面目にホッとした顔と仕草をしたら、途端に怒鳴られた。
怒鳴りながら、オレの胸倉を掴んで自分のほうに引き寄せる。

そんな山口の動きが急に止まる。
オレが隠さずに 『オレ』 で山口を見つめたからだ。

瞳に殺気がこもってるはず。
だってこめて睨んでやったから。

オレはワザと真っ直ぐ視線を合わせたままでいると、その視線に睨まれて山口は動けなくなっていた。

「言っとくけどな “ヘラヘラ” してんじゃねーよ。オレは “ニコニコ” してんだよ」

律儀にチャント説明してあげた。
“ヘラヘラ” はホントしてないし、それに“ヘラヘラ” って情けなさが漂ってなんかヤダ!

「誰も好きでニコニコしてんじゃねーんだよ! ならテメェの前じゃ笑うの止めてやろうか?」

オレよりも背の低い山口を、バカにした視線で見下ろしてやる。

「くっ……」

さらに殺気を上乗せしといたから、余計動けないらしい。

「やるって言うなら相手になるぞ。そうしないと納得出来ないって顔してるしな」

これでも助け舟を出したつもり。
だってこのままでも困るし、とりあえず彼の目的はそれなんだから例えやられたとしても
面目は立つだろう。

「上等だぁ!!やってやるっ!!」
「遅い」

大きく右腕を振るう奴に向かって、そう言った。
オレは山口から少し離れると、山口の腕がオレに届く前に、顔面に右足で廻し蹴りを叩き込んだ。

「ぐっ!」

蹴られた勢いで倒れそうになる奴の服を掴んで、引き戻しざま顎に膝を入れた。
そのまま、また顔面に肘鉄を叩き込んでやる。

「ぎゃっ!」

奴は唸って、コンクリートの上に倒れた。

「うぅ……げほっ……ごほっ……」

どうやら反撃する気力も叩き潰したらしい。
立ち上がってもこない。

「もうおしまい?オレつまんないんだけど」

オレは怒鳴ったりなんかしない。
こうみえて優しいんだ。

「わ…わかった……悪かったよ……もう…勘弁…してくれ……げほっ」

やっとの思いで喋ってるらしい。
うわぁ、顔中血だらけだ。痛そう。

「そ?じゃあオレのこともう構わないでね。オレしつこいの大嫌いだからさ。
それにオレ平和かつ平凡に高校生活送りたいんだからよろしく。じゃあね!」

オレはにっこり微笑んで、サヨナラを言った。

携帯で時間を確かめる。
良かったバイトは間に合いそうだ。

オレは携帯をズボンのポケットにしまって、足取りも軽やかに階段を下りていった。



高校の3年間はあっという間に過ぎた。

オレとしては、結構楽しく過ごせたと思ってる。

その頃の話はまた別の機会に話すことにして。希望どおり刑事にもなった。




「慶彦、今いくつだっけ?」

輪子さんがベッドで裸のまま膝を抱えてオレに聞く。

「22だよ」

オレはホテルの出窓に寄りかかって、タバコを吸いながら答る。
そんなオレを輪子さんがジッと見てる。

ふたりでここにきてもう1時間は経ったかな?
とりあえずやることはやって休憩中。

「なに?輪子さん」

いつまでもジッとオレを見てる輪子さんに向かって声をかけた。

「随分上手くなったなぁと思ってさ。7年も経てば上手くなるわけか」
「くすっ……まぁね」

オレは軽く笑って答えた。

輪子さん……オレの初めての相手。
同じ施設で育った、5つ年上の人。
付き合う手前までいったけど、結局ダメだった人。
でもその後、お互い気軽なのと後腐れない相手ってことで、身体だけの関係は続いてた。

「でも、今日の輪子さんいつもより激しかったね」

オレはタバコの灰を灰皿に落としながら、感じたことを聞てた。
もともとそっちには積極的で、楽しむタイプの輪子さん。
にしても、今日はいつもと違ってなにかを忘れるように、オレを求めて乱れまくってた。

「彼氏に浮気されたんだよね!頭きたからさっ!!」

ムッとした輪子さんが唇を尖らせて言う。

「はあ?これは浮気じゃないの?」

オレは呆れて聞き返した。
どうみても浮気だろ?

「あんな奴、ソッコー別れたわよ!慶彦はあたしにとって安定剤なの。
あんたとしないと怒りが収まんないのよっ!!」
「えーオレ薬扱い?」

ついに人でもなくなったのか?

「あんたさぁ……」

輪子さんが裸のままベッドから降りて来て、オレの目の前に立った。

「顔もいいし背も高いし 『H』 も上手なのにさぁ〜性格がダメなんだよねぇ。
残念だよねぇ。あたしもそこがダメだった」

そう言って、人差し指をオレの胸元にグリグリと押し付ける。

「ぐっ!オ…オレ普通だよ。そりゃあ普段、猫被ってるけどさ」

多分図星を言い当てられてると思うけど、負けずに言い返す。

「違う違う!そこじゃない!あんたさ、人を好きになると、重ーーい好きオーラ出んのよ。
ホント重いのよ。それに時々ウザイ?」
「なっ!?」

なんだよ。ウザイって?酷いじゃん!今の葉は結構傷ついたぞ!

「……輪子さんにフラれてから、誰にも出してないよ」

今度はオレが拗ねてやるっ!!

「あらっ?トラウマになっちゃってた?ごめんねーあはは ♪」

本当は笑いごとなんかじゃないんだけどね。
あのときオレがどれだけショック受けて、どれだけ落ち込んだかなんて輪子さんには、
一生わからないだろうな。

まあもう今さら、どうでもいいけど。

「今は浅く広くなんだ」
「遊んでんでしょ?今に変なのに引っかかるわよ」

輪子さんが心配してるふりして、面白そうにオレに言う。

「そんなドジしない!」
「ふふっ♪ そうよねぇ〜 あんた、そーゆートコ頭いいもんねぇ。あんたのそういうところ好き ♪」

そう言ってオレの首に腕を廻すと、オレを抱き寄せてキスをした。

「んっ……ハッ……ぅうん……」

お互いの舌がいやらしく絡み合う。
オレも輪子さんの身体を抱き寄せた。

「あんたのキスも好き……」

そう言った輪子さんの瞳はもう潤んでて、オレを誘ってる。

「もう一回しよう。慶彦」
「いいよ」

1度で終わらないのはいつものことで、オレは輪子さんをベッドに連れ戻して、輪子さんが望むように抱いてあげた。
輪子さんは激しいのが好み。
だからオレは乱暴に思えるほどに、輪子さんの身体を何度も何度も突き上げた。
そんなオレの攻めに、輪子さんの息がどんどん荒くなっていく。

「ハッ……ハッ……あっあっ!!」

ぐっとオレの肩を掴んで、無意識にオレを押し戻そうとする輪子さんを無視して、さらに激しく攻め立てる。
ベッドのスプリングの音もキシキシと絶え間なく聞えて、お互いの身体のぶつかる音もずっと部屋の中に響いてる。

オレを拒絶して、受け入れてくれなかった輪子さん……。
その輪子さんが我を忘れたように、頭を左右に振り続けながらオレの身体だけを受け入れてる。

身体だけの関係。

輪子さん相手のそんな行為は、初めはなんとなく虚しく思ったこともあったけど、今は割り切って
お互い楽しんでる。


「んっあああああっっっーー!!あああああ!!!!」

── ガ リ ッ !!

「!!」

輪子さんがオレの背中に腕を回して引き寄せたと思ったら、イった瞬間思いっきりオレの背中に爪を立てて引っ掻いたっ!!

「痛っ……てぇーーーー!!」

オレはあまりの痛さに、輪子さんを離してガバっと起き上がった。

「……っ……」

痛すぎて動きが止まる。
ピリピリした痛みとジワジワと広がっていく傷口の熱さで、オレはそのまま輪子さんの隣にうつ伏せで蹲った。

「……ハァ…ハァ……ごめん……だって……あんた……激しいから……ハァ…」
「…………」

だって輪子さん激しいの好みだろ?普通にしてると “もっと” って強請るじゃん。
だから最初からご希望に沿うようにしてたのに……うう……マジ痛い。
これって……絶対血が出てるよ。

しばらくして、ピリピリと痛んでた傷口を輪子さんが “消毒” って言ってペロペロと舐めだした。

それって消毒になるのか?


なんて思いつつ、オレはベッドにうつ伏せのまま輪子さんには聞えないように、

溜息をついて目を閉じた。








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