オレの愛を君にあげる…



06




人質事件の起こったホテルの廊下で見かけた女の子。

オレはその子から目が離せず、息をすることも忘れていた。



「おい!行くぞ」

そう声を掛けたのは、さっきオレを殴った気短青年だ。

「あ!うん」

返事をして走って行った先には、さっき事件に係わった真面目青年と、人質だった女の子も一緒だった。
彼らの知り合いか?

遠ざかる彼らの後ろ姿を見続けながら、オレは自分の胸を触ってみた。


さっきの感覚は一体何だったんだ……





── くそっ!!

いつものように、街で声を掛けた女の子とホテルに入ったまでは良かった。
だけど……どうも集中できない。
何でだ?これで今週は3度目だ。

あれから一週間経つのに、あの子のことがいつも頭の中に浮かんで上の空で他の女を抱いてる。
こんなこと初めてだった。

次の日、仕方なくあの事件の調書を調べた。
オレにしたら珍しいことで、殆んど初に近い。
事件自体には興味なんてないし。

つってもなぁ……あの事件の関係者じゃなさそうだし、ここには名前も載ってないだろうしな。
オレはパラパラと調書をめくって探していた。

読み進めていくと色々とわかってきた。
へーーあのパーティって 『TAKERU』 主催だったんだ。
確か有名なブランドの会社だよな?服にバックにアクセサリーの類で世界的にも有名なトコ。

で?あの真面目そうな青年が 『TAKERU』 の関係者か……「橘 慎二」(tatibana shinnji) ね。
で?あの気短青年が 「新城 祐輔」 (shinjyou yuuseuke) で大学生。
あの人質に取られてた子が 「深田 和海」 (fukada kazumi) って?ん?

オレは彼女の職業を見て驚いた。
 
「ええっ!?刑事っ!?」

オレはビックリして椅子から身体を起こしたくらいだ。

うそ……マジ?マジで?何だよ。この子に聞けばわかるじゃん!
やった!ラッキー!!オレってツイてる!!

傍からみたらなんともマヌケだっただろうなぁ。

オレが自分の席でアレコレと独り言を言っていると、同僚のひとりが部屋に入って来るなり、
オレに声をかけた。

「おい椎凪」
「は?」
「お前、掲示板見たか?」
「いや?掲示板がなに」
「暢気だな……お前に辞令出てんぞ」
「はぁ?」

そう言われて半信半疑に見に行くと……ホントだ。転勤の命令が出ていた。
何だよ……これからあの子に会いに行こうかと思ってたのに……まさか遠くじゃないだろうな?

「!!」

オレは転勤先の警察署を見て言葉を失った。
那留壬(narumi)署って……うそだろ?

これって……運命なんだろうか…?





あれから一週間後、オレは新しい勤務先……那留壬署にいた。

「今日から配属になりました椎凪慶彦です。よろしく」

挨拶もそこそこに、オレは深田さんを見つけて声をかけた。

「深田さんオレのこと憶えてる?」
「はい?」

深田さんは首を傾げて不思議そうにオレを見る。

「あ!!」

どうやら思い出してくれたらしい。

「この前は祐輔さんがすみませんでした!」
「まあ確かに、結構効いたかも」

オレは言いながら殴られた頬を撫でる。

「ほ……本当にごめんなさい!」

そう言って、深々と頭を下げる。
これで少しは罪悪感感じてオレに協力する気になってくれるかな?
なんて腹黒いことを考えてた。

今のオレは手段なんてかまってられないんだよ。


新しい勤務先は、ナントあの人質事件の関係者だった深田って子の警察署だった。
オレってなんて運がいいんだろう!そう思わない?

「いえいえ。でも深田さんが刑事だったなんてビックリ」

それはマジでそう思ったんだよね。

「良く……言われます。見えないって……」

困ったようにニッコリと笑った深田さんは、本当に刑事なんて見えないくらい女の子女の子してた。
でも今はそれどころじゃない!!オレは逸る気持ちを抑えて話し始めた。

「あのさ、深田さんに聞きたいことがあるんだけどさ」

コレくらいで心臓がドキドキしてきた。
オレとしたことがどうしたんだか……。

「はい?」
「あの事件で帰るときさ、もうひとりいたでしょ?」
「もうひとり?」
「君と橘君と新城君と……」

自分で聞きながら、とんでもなくじれったかった。

「ああ!耀さんですか?」
「よう?」
「はい。望月 耀(motiduki you)さんです。祐輔さんのお友達で、同じ大学の2年生なんですよ。
可愛い方ですよ」

深田さんがニッコリと微笑んで言う。
きっと本当に可愛い子なんだろうと勝手に納得。

「へーー」

あの子の顔が頭に浮かぶ。
ほんの一瞬だったけど、でもやっと会える。

会って……確かめないと……。

「あのさ。オレみんなに会いたいんだけど……紹介してくれる?」

ダメもとで言ってみた。
でも断られても諦めるつもりはなかったんだけど、さっきのでオレに対して深田さんが罪悪感なんかを
持っててくれてると話は早いんだけど。

「はい、わかりました。実は今日会うことになってるんです。一緒に行きますか?」

ニッコリと可愛い笑顔だ。

「え?本当?」

やったぁ!!
そう思ったけど、やっぱりこれはただツイてるだけなのか?と不思議な感覚に襲われた。

オレが彼女に会いたいと思ってから、こんなにも順調にコトが進むなんて信じられない。

でもオレはこのチャンスを逃すつもりはない!!

とにかく今日は大きな事件が絶対起きないようにと、心から祈った。








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