オレの愛を君にあげる…



08




ほとんど初対面の耀くんを、無理矢理連れて来た。

オレはずっと耀くんに会いたかったって……やっと耀くんに会えたって……素直に伝えて
近くのファミレスに入った。

もっと洒落たところとも思ったけど、あまり堅苦しいと耀くんが余計緊張すると困るからやめた。



無理矢理連れてこられてこのファミレスまで歩いてる間、この人はオレに何もしなかった。
下心はないみたい。

時々こんなオレでもわかるくらいに、変な雰囲気をもらして近づいてくる男の人とは違うみたい。

何も話さなかったのに……でも、この人ずっと微笑んでるんだ。
そう……ニヤニヤしてるとかじゃない。

嬉しそうに微笑んでる……。

まるで小さな子供が、嬉しいことがあっときときみたいに。


席にとおされて落ちつくと、メニューを立てて選んでるフリをした。
なんで彼についてきちゃったんだろう?と、溜息が出た。

自分でも不思議だった。
いつもなら、最初に肩を掴まれただけで悲鳴を上げて、祐輔のところに逃げ込んでるのに。

それにさっき 『でもよかった。やっと会えた』 って言ったときの彼の笑顔がさ……。
なんか…その……オレの警戒心解いちゃったって言うか……オレの胸の中に、
なにかホワンとしたものが灯ったんだ。

あれって……一体なんだったんだろう?
ああ……もう、よくわからないや。
でも、ふたりっきりになるとやっぱり後悔が込み上げてくる。
確かに……ご飯に釣られたのも多少あるけど……。

ここのデザートの新商品が出たって……この人が言うから。
オレは食べることが好きだから、ついついその言葉に……あーーでもやっぱり……。

でもこの人……ずーっとオレのこと見て、ニコニコ笑ってるんだ。
困ったな……でもオレと居れるのが、そんなに嬉しいのかな?

なんか、不思議だし信じらんない。


「あ……あの……」

恐る恐る目の前に座る人物に声を掛けた。

「なに?耀くん」

声を掛けた相手は、何も気にしてない様子でこれまたニッコリと返事をする。

「やっぱり……オレ……自分の分払うから」

最後の方は小さな声になちゃった……聞えたかな?

「なんで?いいよ。オレが誘ったんだからオレが払うから。それにオレのほうが年上だし」
「い……いいよ。初対面だし……それにオレ、たくさん食べるから」
「たくさんって?」

あ……彼が、初めてキョトンとした顔した。

「えっと……2・3人前は……軽く……?」

顔を反らして説明したんだけど、なんか言ってて恥ずかしくなる。
でも、食べるの……楽しいんだもん……。

「へー凄くたくさん食べるんだね。食べるの好きなんだ?」
「う……ん」

そう……いつのころからか、それがオレの楽しみになった。
誰にも迷惑をかけることなく、自分ひとりでも満足できること。

「オレ、元気にたくさんご飯食べる子、大好きだなっ♪」

「え……?」

頬杖をついて、さらにニコニコな顔になってオレをずっと見てる。
なに?この人……今までこんな人、オレの周りにいなかったかも。

そんな彼との会話と笑顔で、ちょっと気持ちが軽くなった気がした。
それもいつものオレからしてみたら、とんでもなく珍しいことで……。

このまま振り切って逃げる、という選択肢は浮かばなかった。


予告どおり、3人前はあるかと思えるほどの料理を平らげてしっかり新商品のデザートも食べた。
ふふ ♪ 満足!

「本当に食べるの好きなんだね」
「うん」

キレイに平らげたお皿を前にして、満足気にニマニマしてたオレを見て彼が言った。
呆れられたのかな?それでも別にいいけどさ。


「有り難う御座いました」

レジで女の従業員さんがニッコリと営業スマイルで笑ってる。
結局、彼がオレの分まで払ってくれた。

「あ……あの……オレの分払うよ」
「いいから。いいから」

何度言っても聞いてもらえなかった。
仕方なくご馳走になることにする。

「あ…ありがとう……。えっと……?」

彼、なんていう名前だったっけ?

「椎凪」

オレが名前を言えずにモタモタしてたら、察しってくれたらしく自分の名前を言ってくれた。

「あ…ありが……とう。椎……凪さん……」

たったそれだけのことを言うのに、えらく緊張する。
祐輔と慎二さん以外の男の人とこんなふうに話すなんて、あまり経験がないから。

「どういたしまして。でも 『椎凪』 でいいよ。耀くん」

いやいや……いくらお許しが出ても言えないって。
そこまで親しくもないし……あ!

なにげなく見てた、オレの先を歩く彼の後姿を見て思った。
この人……背が高い。
祐輔よりも高いんだ……なんて今さら気づいた。
散々隣に立ってたのに……まあ、そんなにじっくりなんて見れなかったしさ。

なんて考えながら歩いてたら、お店の前の石畳の階段を踏み外してつんのめった!

「うわっ!!」
「ん?」

当然のことながら、思いっきり前を歩いてた彼の背中に突っ込んだ。

「ぶふっ!!」

その勢いで、彼の身体に背中から抱きついてしまった。
でもそうしないと、オレは物凄い勢いで地面に顔面から激突だった。

「大丈夫?」

彼は何事もなかったように、平然と立っていた。
オレはしがみついたまま動けなかったから、オレの全体重を受け止めてるはずなのに……。

「え?あ……ごめん。考えごとしてて」
「気をつけてね」

ニッコリと笑ってオレを起こしてくれた。
急にぶつかったのによろけもしないんだ……この人。

また自分の胸の中に、なんとも言えないホンワカとしたものを感じた。
ホント……これって一体なに?


「家まで送るよ」
「えっ!いいよっ!!一人で帰れるから……」

冗談じゃない。
これ以上はオレ自身がもたないよ。
もうオレの精神的許容範囲は、振り切っちゃってるんだから……本当にもう無理。

途中祐輔からも慎二さんからもメールが来てたし……あとでちゃんと返事しなくちゃいけないし。

「ダメだよ。耀くん可愛いんだから危ないよ」
「可愛いって言われても……」

可愛いからなんだという気もするけど……確かにこの時間にひとりって心細いことは確かなんだけど……でも……。


「ほら、家どっち?」

なんとか露骨に嫌がられることなく、耀くんと食事を終えた。
耀くんが言ったとおり、耀くんはたくさん食べた。
食べてる耀くんは、食べることがとっても嬉しそうで幸せそうで、見てるオレも嬉しくなった。

オレの作った料理を耀くんが美味しそうに食べてくれたら……そんなことを想像して余計顔が綻ぶ。

そんなオレの気持ちを、耀くんはわかってくれてるだろうか?
どう見ても、渋々と歩いてる耀くんを促して歩き出した。

流石に手なんて握れないよな……って、今まで女の子と手なんて握って歩いたことなんてないじゃん!!

ホント、一体どうしたんだ?オレ!?
でも……ダメなんだよ。
耀くんが……可愛すぎて……今までにないことを口走ったり、行動したりしそうな自分がいる。


渋る耀くんを無視して、耀くんの家に向かって歩き出すと、しばらくして行く方向に人がたくさん集まっていた。
なぜか消防車や救急車まで……なんだ?火事?のワリには辺りに煙の匂いも火の気配もない。

「飛び降りよ!飛び降り!!」
「屋上か?」

集まってる中からそんな声が聞こえて来た。
飛び降り?え?自殺……か?

少し先のビルの屋上らしい。
オレ達は近づくことなく、その場で状況を見ていた。

「きやああああーーーー!!!」

野次馬の誰かが悲鳴を上げた。

「飛び降りたぞっ!!」

そんな声まで聞こえる。
なに?飛び降りたのか?

──── ド サ ッ !!

すぐあとに柔らかい上になにか落ちた音がした。
きっと下で用意してあった空気マットに、落ちたんだろうと思った。
そこまではここからじゃ見えないし、オレとしてはそこまで関心もなかったから。 

「おおーーレスキューが間に合ったみたいだぞ!」
「無事みたいね……」

人影で良く分からないけど野次馬のそんな会話で、どうやら飛び降りた奴は助かったらしい。
オレは隣にいる耀くんに話しかけた。

「助かったって。耀くん」
「………………」
「耀くん?」

振り向いて気がついた。
耀くんの様子がおかしい。
頭を両手で強く掴んで、身体はガタガタと震えてる?

「ぅっ……あっ……」

苦しそうに息を吐き出してる。

「耀くん?どうしたの?気分悪いの?」

助かったとはいえ、生で飛び降りるところ見たんだ……それで気分が悪くなったのか?


───── 耀  ─────


母さんの呼ぶ声が聞える……。

オレに……手を伸ばして……落ちていく……。

身体の震えが止まらない……。

あのときと……同じ……同じだっ!!



「ハァ……ハァ……うっ……母さん……」

「 ? 」

耀くんが辛そうに言葉を搾り出す。
頭はずっと両手で抱えたまま、今にもしゃがみ込んでしましそうなほど身体を折り曲げて苦しそうだ。

「ぁ……母さんが……」

そんな耀くんが、やっと聞えるくらいの小さな声でなにか呟いた。

「耀くん?」

オレは耀くんに近づこうと耀くんを覗き込んだ。
そんなオレの耳に届いた耀くんの言葉。

「母さんが……オレの……オレの目の前で………落ちていく……」

「 え? 」

今……耀くんは何て言った?

「!!」

そう言った途端耀くんが、何かに弾かれたように叫び声を上げた。

「 わああああああああーーーーっっ !! 」

「耀くん?」
「やだっ!!やだっ!! 母さんっっ!!」
「耀くんっ!!」

急に耀くんが暴れ出した!何だ?パニックになってる。
周りが見えてない。
オレの声も聞えてない。

「落ち着いてっ!!耀くん!!」

耀くんの肩をしっかりと掴んで、オレの方を向かせたけど、でも……耀くんはオレを見てない!

「あっ!あっ!うあああああーーーーーーっっ!!!」

「耀くん!!」

泣きながら暴れる耀くん。
オレはワケがわからなかったけど、とにかく力一杯暴れる耀くんを抱きしめた。
それでも耀くんは止まらない。

「やっ!!あああああっ!!あっあっ!!!」

「……っつ!!」

暴れて振り回した耀くんの手が、オレの頬を引っ掻いた。
思った以上に切れたらしい。
滲み出た血が頬を伝って流れた。

「あっ!!」

それを見た耀くんが我に返る。
オレはそんな隙を見逃さない。

「大丈夫?耀くん……」

優しく……耀くんをこれ以上刺激しないように、そっと声をかけた。

「あ……」

ゆっくりと、オレの傷に耀くんの指が触れる。

「ご……ごめんオレ……オレ…うっ……」

オレの頬を指先で触れたまま、俯いてしまった耀くんが声をあげずに泣いてる。

「これ位大丈夫だよ。それより、耀くんの方が心配だよ」

オレは腕の力を緩めて、優しく耀くんを腕の中に抱きしめた。
俺の腕の中にすっぽりとおさまる、小さな身体の耀くん。
耀くんはずっと震えたままだ。

「大丈夫?」
「……うん……ごめん……ごめんね……ぐずっ……」


オレはオレの胸に預けてくれてる耀くんの頭を優しく撫でて、

今度は腕に少し力を入れて、耀くんを抱きしめてあげた。








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