耀くんをマンションに送って、そのままオレを部屋に上がらせてくれた。
あがらせてくれたというよりも、オレが耀くんの肩をずっと抱くようにしてから、
有無も言わせず部屋の中まで入った。
ソファに座らせて、未だに気分のすぐれない耀くんにソファに置いてあったタオルケットを掛けてあげた。
普段からこのタオルケットに包まって過ごしてるって。
怪我をしたオレの頬は耀くんが絆創膏を貼ってくれた。
「変なところ……見られゃったな……」
耀くんがオレから顔を逸らして呟いた。
「大丈夫?」
「うん……もう……大丈夫。ゴメンネ……迷惑かけて……」
「オレは平気だけど……ちょっとビックリした」
いきなりパニックになって取り乱すなんて……なにかあったのかな?
「まさか……飛び降り見るなんて思わなかった……。
はーーだから思い出しちゃって……ワケがわからなくなっちゃって……」
耀くんが目を閉じながら話してくれた。
「オレの母親さ……オレの6歳の誕生日にオレの目の前で飛び降り自殺して……死んだんだ。
理由はね……オレのせい……。
父親と愛人の子供だったオレを、騙されて育てさせられたせいで……母さんは死んだんだ。
父親との間に子供がいなかったから、施設から連れて来た赤ちゃんだって騙してさ……」
虚ろな顔と、弱々しい声で話し続ける。
「…………」
オレは黙って耀くんの話を聞いてる。
「飛び降りる直前の最後の言葉がね…… 『もう耀を育てることができない』 って……そう言って飛び降りた。
母さんが死んで何年か後に、父親がその愛人と再婚したんだ。
そのとき初めて知った……自分がその愛人ソックリな顔だって……だから母さんは……」
いつの間にか涙が、耀くんの瞳から零れて頬を伝って落ちる。
「死を選ぶほど苦しめてるなんて全然わからなかった……。
オレなんて……生まれてこなければよかった。
そうすれば母さんは死ぬことなんてなかったのに……オレ……知らなかったんだ。
オレが生きてるだけで苦しむ人がいるなんて……」
そう言うと、耀くんは立てた膝に顔をうずめて黙った。
「ふ……ぅ……ぐずっ……」
「…………」
耀くんがまた声をあげずに泣いてる……。
耀くん……そうか……だから耀くんなんだ。
「オレはさ……生後一ヶ月で親に捨てられたんだ」
「え?」
耀くんがビックリした顔をして、オレを見上げた。
あ!顔をあげてくれた。
「そのあと親が見つかったんだけど、どうしても育てられないって……引き取ってもらえなかった」
オレはクスリとハナで笑う。
でもそれは本当のことで、そのことを知ったときオレは呆れて笑いが止まらなかった。
だったらなんでオレなんて産んだんだよ、って心底思った。
「だからオレは2度、親に捨てられたの」
「…………」
ああ……耀くんってばそんな辛そうな顔しないでよ。
そんなのすぐに割り切ったから。
オレは母親にとって、母親が生きていくにはいらない存在だったんだって。
その証拠に母親は二度とオレに会いに来なかった。
父親なんて誰かも知らないし誰からもなんの連絡もこなかった。。
「でも耀くんのお母さんは、6年間耀くんのこと育ててくれたんだね。
血の繋がりがないの知っててもさ……。
オレなんか実の親なのにだもんな……だからいつも思ってたよ。
何でオレなんか産んだのかって……捨てるくらいなら産まなきゃいいのにって……。
こっちは生きてかなきゃいけないからさ」
「…………」
耀くんが黙ってオレの話を聞いてくれてる。
他人にこの話をしたのは、耀くんが初めてかもしれない。
「でも……生きてて良かった。耀くんに会えたから」
「え?」
耀くんが、キョトンとした顔してる。
「…………」
オレは黙って、耀くんに向かってニッコリ笑う。
―――― やっと巡り会えた。
─――― オレの心の痛みをわかってくれる人に……。
オレは耀くんの目の前に膝を付いて座った。
「!?」
ソファに座ってる耀くんと目線が同じになる。
「な……なに言ってんの?」
「ありがとう。耀くん」
「え?」
―――― だから絶対オレのものにする。
「オレのために生まれて来てくれて」
―――― 本当にそう思う。男の子だって構わない。
「え?」
―――― ちゅっ……
オレは耀くんのオデコに約束のキスをした。
一方的だけど、オレ自身に約束の証。
必ずオレのものにするって自分に約束した。
これからは耀くんはオレのものだ。
絶対誰にも渡さない。
「うわぁっ! ちょっと何すんのっ!!」
耀くんがもの凄く慌てて額を手で擦う。
その慌てぶりが可愛いね耀くん。
「ねぇ耀くん?ここひとりで住んでんの?こんな広いトコ」
オレは今頃この広い部屋に、オレ達以外人の気配がしないことに気がついた。
外観もそれなりに立派な建物でちょっとビックリだったんだよな。
もしかして耀くんっていいとこの子?
「え?うん……親は仕事の関係で別に住んでる……って言うか一緒に暮らしたくないんだ。
本当のところ……でもなんで?」
耀くんが不思議そうに、オレを見て聞いてきた。
「え?ねえ耀くん。オレにここの空いてる部屋貸して!」
「 ええっ!? 」
唐突に何言い出すんだ?この人!?って顔してる。
さっきから驚いてばっかりだね。耀くん。
「だっ…ダメだよっ!!何言ってんの?オレ達今日会ったばっかりだろ?
オレ、君のことよく知らないし……オレ人見知り激しいし!!」
「もう平気でしょ?抱き合った仲じゃない♪」
ニッコリ笑顔で返してあげた。
「あ……あれは!」
耀くんが真っ赤になって焦ってる。
ますます可愛い。
「それにオレ料理トクイなんだっ!!和・洋・中・伊おまけにデザート系もOKだよっ!
毎日美味しいご飯作ってあげるけど?」
「えっ?」
ぱあっと顔が明るくなって反応した!もうひと押しかな?
「美味しいコーヒーも淹れてあげる。耀くんは何が好き?」
「え?オレ?あー中華…かな?」
よしっ!もう一押しだ。
「じゃあ明日の夕飯は酢豚がいい?天津飯?それともマーボー豆腐がいい?
何でも作ってあげるよ。」
オレは具体的に料理の名前を挙げて、耀くんの食欲を刺激する。
「ええーーっ!!本当?じゃあ酢豚!」
「じゃあ同居OKね!さっそく明日引っ越して来るからヨロシクね!」
「あっ!!」
耀くんがしまった!という顔をしたけど後の祭り。
「フフ♪」
「ず……ずるーーいっっ!!食べ物で釣るなんてっ!!」
「今さら遅いよ。オレの作戦勝ち!へへっ♪」
耀くんがずっとズルイってオレに言う。
オレはそんな耀くんに笑って応える。
これからオレと耀くんの、ふたりの生活が始まるんだね。
耀くんは不安で一杯かもしれないけど、オレはどんな楽しいことがあるか期待でワクワクしてるよ。
絶対オレのものにする。
だからね……覚悟してね……耀くん♪
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