オレの愛を君にあげる…



15




慎二君と話をしてから、二日が経った。
オレを受け入れてくれたのがわかって、オレはスゴク嬉しい気分だった。

……数秒前までは。


「え?」
「だから、明日の夕方から親の所に行ってくるから、3日間いないからねって言ってるの」

ガ ー ー ー ー ン !!

一瞬で目の前が真っ暗になる。
手の力が抜けて、持っていた箸と茶碗を落とした。

「なに?聞いてないよ、そんなこと……じゃあなに?その間オレひとり?」
「ごめん。2ヶ月に一度、親に会ってるんだ。それがひとり暮らしの条件だからさ」

耀くんが辛そうに話す。
きっと耀くんの母親が亡くなった原因が父親にもあるし、再婚相手が一番の原因の愛人……。
耀くんの生みの親だもんな。あんまり会いたくないんだ、きっと……。

「オレも気が重いんだけど、仕方ないから……」
「わかった……仕方ないよね……我慢する……グズッ」
「もー大袈裟だなぁ」

耀くんが、呆れたようにオレを見てる。

大袈裟なんかじゃない。
耀くんはわからないんだ……。
オレがどれだけ耀くんに癒されてるか……どれだけ耀くんが必要なのか……。

どれだけ耀くんのこと愛してるか……。



次の日の夕方、夜行のバス乗り場で耀くんを見送った。
電車よりも、ひとりの世界になれるからいつもバスなんだそうだ。
新城君も見送りに来ていた。
いつもそうしているからだって。
ちょっと……いや、かなり新城君のことは気になる。


「じゃあな」

耀くんを見送って、素っ気なく帰る新城君の後ろをついて行く。

「あぁ?何でオレについてくる?」

ものの数歩で、あからさまに迷惑そうな顔でオレのほうに振り向いた。

「泊めてよ。耀くん帰ってくるまで」
「あ゛ぁ゛?何言ってやがる?ふざけんな!誰が泊めるか!耀の家で耀が帰ってくるまで
おとなしく待ってろっ!」

相変わらずの暴言。
顔が綺麗な分、ギャップが残念に思う。

「えーっ!ひとりじゃ寂しくて、オレ死んじゃう」

半分は本当のことだ。
耀くんと知り合ってから、耀くんがオレの傍にいないと、言いようのない不安がオレを襲う。

「知るかっ!」
「ホント、マジ死んじゃう……」

思いきりゴネてやった。
そしたら新城君が、さっきよりも露骨にヤな顔して睨んだ。

でも偵察も兼ねてたりするから、そう簡単に諦めたりしない。
彼のことが気になる。
深田さんという彼女がいるのに、耀くんとあまりにも仲がよすぎると思う。



いつものように、耀を見送った。
今回は、邪魔な野郎が一緒についてきやがって。
鬱陶しいことこの上ない。
しかも、こいつ耀にベタ惚れなのがダダ漏れでわかる。
まあ耀のこともわかってるらしく強引には出てないみたいだが……。

ただ、こいつ……ウゼェ。
なんでオレについてくんだよ。
ふざけてんのか?

「ああ……耀くんがいなくて寂しいなぁ……新城君は耀くんの友達じゃないのかな……。
こんなんじゃオレ耀くんが帰ってきたら自分抑えられる自信ないかなぁ……耀くんが嫌がっても……」

「…………」


余りにもしつこく、ダダをコネ捲くったオレに呆れ果てて、新城君がやっとOKしてくれた。


ついて行った新城君のマンションは、とにかく豪華な 『億ション』 と言われるところだった。
最新のモデルで、ホント高そう……こんな家に住んでるとはビックリ。

「うわっ!何?この嫌味なまでの豪華な部屋は?」
「うるせぇ!嫌なら帰れっ!」

部屋に入るなり、あまりの内装に勝手に口からそんな言葉が飛び出した。
とにかく広いし、家具も洒落てて高級感が漂う。
リビングは50畳位ありそうだし、はき出しの窓は外の風景をパノラマで見れる。
最上階で展望もいい。
バルコニーも洒落たテーブルと椅子のセットが置いてあるのに、まだスペースに余裕がある。

「なに?君って御曹司なの?お坊っちゃま?」
「ここはジイさんが用意したから住んでるだけだ」
「ジイさん?君のお祖父さんがお金持ちってこと?」
「さぁな。オイ、ベッドひとつしかないぞ?どーすんだ?」
「一緒に寝るからいい」
「あっそ」

素っ気なく即答された。
半分冗談だったんだけど。

「いいの?オレと一緒のベッドなんて」
「耀以外、眼中にない奴警戒したって仕方ねぇだろ。はぁ……コーヒー飲むか?」
「え?あ……うん、ありがと……」

何気に優しいんだ……ちょっと意外。
コーヒーを淹れる仕度をする彼を眺めつつ、話しかけた。

「君って結構何でも受け入れちゃうんだね」
「あぁ?さあな……ただ、色々なこと考えるのが面倒なだけだ」

淹れたてのコーヒーを、オレに渡しながら言った。


夕飯を食べた後、バルコニーで夜風にあたっている。

今頃耀くん何してるのかなぁ……。
さっきのメールでは何事もなく向かってるらしい。
会いたいなぁ……会いたいよ、耀くん。

オレはベランダの柵で頬杖をついて、合ってるのかどうかわからないけど
耀くんがいるかもしれない方角をぼんやりと眺めてた。

新城君はお風呂に入っている。
お喋り好きというわけではないみたいだけど、暗いワケじゃないし話も合う。
なんて言うか、テンポが合うって感じ。
喧嘩っ早いけど悪い奴ではなさそうだし、何より耀くんの友達だから上手くつき合わないと。

ヒ ュ ン !

「!!」

とっさに避けた。
でも左の頬をかすめたらしく、ピリッと痛みが走って一筋切れ目が入り血が滲んできた。

「良くよけたな」

いつの間にか、新城君がオレの後ろに立って微笑んでる。
左手にナイフを持って。

「オレ本気だから、お前も本気出さないと体中切り刻まれるぞ」

本気なのがわかる。
殺気、出まっくてるし。

「わかってんだよ。お前それ本当の姿じゃないだろ?本気出せよ」
「なんだ、やっぱりバレてた?ヤバイと思ってたんだ」

しばらく黙って彼を見つめてたけど、思わず笑いがこぼれた。
もう、隠すつもりはない。

「やっぱりな。ワザと手ぇ出さねーからおかしいとは思ってたけどな。お前だって殺気出まくってるぞ」
「仕方ないだろ、耀くんにこの “オレ” を見せるワケにはいかないんだよ。マジでオレとやんの?」

止めないだろうとは思ったけど、一応聞いてみた。

「ああ。やっておかねーと耀のこと許さねー」

綺麗な顔が、ニヤリと笑った。
やる気満々だ。

「じゃあ、やるしかないか」

何だろ?思わず笑いが出た。




どのくらいやり合っただろう。
お互い相手に一発入ればやり返して、一発相手に入れる。
その繰り返しだ。

何発目かオレの蹴りをよけた彼の合間に滑り込んで、脇腹に肘鉄を入れた。
ヨロけた彼を掴んで、鳩尾に膝蹴りを入れた。

いつもならこれでKOなんだが……彼は違った。

さっきよりも瞳に殺気が増してる。
どうやら “何かのスイッチ” が入ったらしい。
左頬に一発食らって、腹に膝蹴りを受けて思わず床に手を着いた。

何だろ?こんなの初めてだ。
オレと互角?珍しい。
なんでだろ?ナゼか笑えるんだよな。

「あーー楽しいなぁ♪ ねぇ、新城君?」

オレはナゼか上機嫌だった。

「上等だよ!椎凪!テメー殺す!」

あれ?ホントにマジになってる?

「それは勘弁!やっと耀くんに出会えたんだからヤダね!」
「耀にはオレから言っといてやるよ。オレに負けて尻尾巻いて逃げたってな」 
「はあ?」

なに言ってんだ、なんて思って気がそがれた一瞬で胸倉掴まれた!

「なっ!」 

背負い投げの要領で投げられて、思いっきり背中から床に叩き付けられた。

「がはっ!」

息が詰まる。
床から見上げると、微笑んでる彼が見えた。
なんだよ、余裕じゃん。

オレはその顔めがけ足を蹴り上げた。
踵が彼の顎を掠めて、彼がヨロめいている間に起き上がる。

「ケホッ……冗談か?誰が負けて逃げるかよ」

ホント、冗談じゃない。
咳き込みながら彼との間をとる。

「………」
「………」

お互い動かずに相手を見詰め合っていた。


「もうやめっ!きりがねー」
「!」

彼が急にそう言って、髪をかき上げて息を吐いた。

「別にお前と勝負決めるつもりはない。お前の “ソレ” が見たかっただけだからな」

突然彼の殺気が消えた。
どうやら止めるのは本当らしい。

「耀に知られたくないっていうならかまわねー。でも知られたからって別にたいしたことじゃ
ないんじゃねーの?」

「それでも……それでもオレは恐い。耀くんにはこの “オレ” は絶対知られたくない!!」

そう……こんなオレを知ったら、きっと……きっと耀くんはオレのこと嫌いになる。
もしかしたら、耀くんのことだって、傷つけてしまうかもしれない。

そんなオレのことを察したのか、また新城君がかったるそうに息を吐いた。

「わかった……耀には黙っててやる」

そう言って、彼はタバコを吸い始めた。



シャワーを浴びて寝室に行くと、新城君がもうベッドに横になっていた。
さっきの彼とは別人のように穏やかで、ここに来たときの彼だ。

「新城君、もう寝た?」
「……祐輔でいい」
「え?」
「名前」
「あ……うん」

ゆっくりベッドから上半身だけ起き上がると、けだるそうに答えた。

「何だ?そのままでいいのかよ」

“オレ” のままで話しかけたからそう言われた。

「もう君の前で作ったって意味ないだろう?」
「そりゃそうだな」 

髪をかき上げながら、クスリと笑う。
え?笑った?……珍しい。

「絶対耀くんには秘密だからなっ!」
「しつこいな、わかってるって」

だって不安なんだよ。
慎二君はきっと耀くんにそんなことはしないと思うけど、彼は……祐輔は怪しいんだって。

「しかし、耀が女と付き合うとは思ってなっかたが……まさかお前みたいのが相手とはな。
だからって、お前とのことオレは認めてねーかんな、勘違いすんな」

まったくというように、溜息をつかれた。

「オレじゃ何か不満でも?」

文句あんのか?
ムッとして睨んでやった。

「思ってること、全部言ってやろうか?」
「……いや、いい。なんか落ち込みそうだし……」

オレに対するうっぷんと、文句を言う気満々の祐輔に気づいて遠慮した。

「賢い選択かもな。聞きたきゃいつでも言ってやる」
「オレが猫被ってるのが気に入らないのか?」
「別に……ただ慎二といい一人二役なんて良く疲れねーよな?めんどくせーっ」
「慎二君か……彼にもバレちゃったんだよな……って、慎二君のことも知ってた?」
「ああ、あいつお前よりも区切りハッキリしてねーから、いつの間にか切れモード入ってたりすんだよ。
タチが悪い。あいつは怒らせると面倒だから気をつけた方がいいぞ」
「うん、わかった……ありがと」

素直に、その忠告を聞いた。
オレも何となくそう思うから。

あの微笑みながらその笑顔とは裏腹に、やることはエグかったりするのはもうわかったから。

そのあと、祐輔が寝るのが好きなことが判明。
だから、 『用もないのに絶対オレを起こすな』 と、念を押さた。
しかも、寝起きが超不機嫌なんてエライ迷惑だと思うんだけど。

耀くんも朝弱いけど、不機嫌にはならないし、なにより寝起きが可愛い ♪

他にも祐輔はあんまり “食欲” がない。

朝もコーヒーだけでもOKだし、ご飯もあんまり食べない。
まあ、オレの料理は今は耀くんのためだからかまわないけど、なんとなく祐輔にはもっと食べてほしいと思う。

ただコーヒーだ・け・は・美味しいと言ってもらえた。
祐輔は無類のコーヒー好きらしいんだよね。

そこしかいいところはないって皮肉一杯で言われたけど、それほどダメージは受けなかった。


耀くんが帰って来る3日間。
不思議とオレは楽しくて、寂しい思いもせずに過ごすことが出来た。

それって祐輔のお蔭なのかな?なんて思いつつ祐輔と一緒に耀くんを迎えに夜の街を歩いていた。








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