オレの愛を君にあげる…



17




「げっ!!ルイさん!?うそっ!!」

見間違えるはずがない!
あれは……瑠惟(rui)さんだっ!!何でこんなところに!?

忘れもしない……やっと縁が切れてホッとしてたのに……何でまた?


短い時間だったはずなのに、長い時間今までの悪夢を思い出していたような気がする。


朝イチでオレのいるこの課に、今日からルイさんが配属になったと課長から紹介があった。
あ……悪夢だ……。

「久しぶり♪ 椎凪。元気だった?」

ニコニコ顔のルイさんが、軽く手をふってオレに近づいてくる。
ああ、元気だったよ……ルイさんが現れるまではね。

「何よー?そんなに嬉しい?」

意味ありげに笑って、オレの顔を覗き込んでくる。
腰まで届く長い髪と身体にピッタリとした服を着こなしてるサッパリ美人。
なかなかのプロポーションで結構人目を惹く。
オレは惹かれないけど。
なんたって性格が最悪だから……俺限定かは知らんけど。

「これが喜んでるように見えるの?」

ホント、目がおかしいんじゃないの。
どんだけオレが呆れた眼差し送っても、鈍感なのか最初から気にもとめてないのか、
まったくの無視だ。

「いやーこれから楽しみ。あんたもいるし可愛い女の子もいるしぃ」

そう言いながら、深田さんを羽交い締めにして弄くり回してる。
あーあ、深田さんがさっそく餌食になってるよ……。

「オレは憂鬱だよ……最悪」
「また可愛がってあげるわね。椎凪 ♪」

そう言ってオレにウィンクして見せた。

「…………」

オレにはそれが、呪いをかけられたように見えた。
背中に悪寒が走る。

「余計なお世話だよ。やめてよね……ホント勘弁して」

遠巻きに見ていた堂本君が、不思議そうな顔をしてオレのところに来た。

堂本君はうちの課の中で、男では一番年下の刑事。
未だに学生の雰囲気が漂うチェリーボーイ(オレの勘だけど)。
オレの憂さ晴らしのオモチャになりつつある。

「椎凪さん、逆帋(sakagami)さんのこと知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、何年か前にいたところで一緒だったんだけどさ……もー散々だった。
仕事は出来るんだけどさ、オレのこと引っ掻き回すんだよ。 疲れる」
「椎凪さんをですか?」
「そう……同い年なのに姉貴みたいでさ。折角転勤になって縁切れたと思ったのに……。
何でまた同じになんだよ……信じらんねー」

そう話しつつ、堂本君に哀れみの目を向ける。

「堂本君……君きっとルイさんにいじめられるよ。ルイさんトロイ子嫌いだから」
「ええっ!!マジっすか!?」

そんな話を聞いて堂本君が青ざめる。
ご愁傷様……堂本君。
ってか、自分がトロイって自覚してたんだ。




ルイさんがここに来て2日、怒鳴り声が響く。

「堂本ぉーー!!あんた何やってんのっっ!!チンタラやってるから逃げられんのよっ!!」
「すっ……すいませーん!!」

あーあ、さっそくやられてるよ。
オレはそんな2人を横目に、なるべく離れた場所にいるようにしてた。
触らぬ神に祟りなし……だ。


「相変わらずあんたって、手際いいわよねぇ」

捕まえた犯人を、応援で来てたパトカーに押し込んで、見送ってたオレの左腕に
ルイさんが腕を絡ませながら、ニコニコな顔で言う。
まるで恋人みたいに……。

結局捕まった。
どこにいても同じだった。
はぁ……。

「褒めたってダメだよ」

あーホント、前と同じだよ。

「深田も使えるし、内藤さんも出来る人だし。ここ気に入っちゃった!」
「そりゃよかったね」
「なによ?ホントにあたしと一緒嫌なの?冷たいわねーちょっと会わなかっただけで」
「……ちょとは嬉しいよ。本当……こんだけ…ね」

オレは右手の親指と人差し指を5ミリ程広げた。
あーやだなぁ、ウソつくの。
でも、そー言っとかないとウルサイからなぁ……。

「もー照れちゃって」

照れてないって。

ルイさんはいつもそうだ。
オレの言うことは、自分の都合のいいように解釈する。

「ねえ椎凪、今日飲みに行こうよ!ね?」
「………」

ほらきた。
悪夢のようなお誘いだよ。
断る権限がないことをオレは知ってる。
いつもそうだった。
その証拠に 『絶対行くのよ!』 と決めているルイさんの笑顔と一緒に、
オレにまわしている腕の力が一段と強くなっていた。



「しかし、またあんたと同じ署になるなんてねー」

居酒屋のテーブル席で、まだちょっとしか経っていないというのに、もうルイさんはチューハイ2杯目に
手をつけている。
既にその前にビールも何杯か飲んでたよな?

「ルイさん、あんまり飲まないほうがいいよ」
「えぇ〜?なんでよ?」

なんでって……自分のことわかってないのか?

「酒癖悪いからに決まってんじゃん」

軽蔑の眼差しに近い目で睨んで呟いた。

「んなっ!失礼なっ!」

どうやらオレのそんな視線に気が付いたらしい。
怒ったかな?

「だってルイさんキス魔じゃん。何度酔ったルイさんにキスされたか」

何度思い出してもムカつく。
酔ってるトキのルイさんのキスは、頬とかにする生易しいもんじゃない!
思いっきり舌を絡ませたディープキスだ。
引き剥がそうにも酔ってるせいなのか、刑事の仕事で培われたのか、
ものスゴイ力で抵抗も回避も難しい。

「あら?あたし酔ってても美形としかしないのよ!喜びなさいよ」

また変な理屈捏ねてる。

「拒絶すると今度は子供みたいに泣きまくるしさ……凄くウザイ」

キス魔の次は泣き上戸で、ホント始末に負えない。
何言ってんのよ!って顔でオレを睨みつつ、お酒を飲み続けてる。
人の忠告は聞けっつーの!

「ルイさん、オレ、人と待ち合わせしてるからもう行くよ」

そう、今日は耀くんと待ち合わせしてるんだ ♪
慎二君の所に行っていた耀くんを迎えに行くんだ。

「えー誰よ?また新しい女?」
「はあ?」

また、ってなんだ?また、って!失礼なっ!
ルイさんと知り合ってから今まで、女なんて作ったことなんてないだろうが!
その前も特定の相手は輪子さん以外いなかったし、そのことはルイさんは知らない。

「違うよ。じゃあまたね、気をつけて帰んなよ」

余計なことは言わない方が身のためだ。
オレはサッサと席を立った。

「何よー送ってくんないのぉ?女ひとり、夜道帰すつもり?」
「ルイさんなら襲われたって平気でしょ?返り討ち出来るじゃん。
こっちはね、可愛いウサギちゃんなの!じゃあね!」

まったく……自分のこと判ってないのか?
犯罪者に容赦ないくせに。
大人しく捕まる犯人よりも、抵抗する犯人のほうが楽しそうなくせに。
(問答無用でド突けるから。)


「はいっ!!椎凪!あたしも行く!」
「はぁ?」

元気よく手を上げて、とんでもないことを言い出した!
もう、顔真っ赤でフラフラじゃんかよ。
思いっきり酔ってんな……。
あーもう……ウソだろう?どこまでオレの邪魔すんだよ。

「まったく……」

こんな不満を抱いてるルイさんだけど、オレは邪険にできないんだよな。

ルイさんはオレの初めての相手……輪子さんに似てるんだ。
性格もチョトした仕草も……。

本当は別れた元カレのことが忘れられなくて、会いたいくせに自分から別れ話を切り出したのと、
ルイさんが言うには、相手が浮気性だったらしいので会いたくないそうだ。

だから特定の相手を作らずに、一晩限りの女遊びをしてるオレを見てると、その元カレを思い出して
余計絡みたくなるらしい。

オレはルイさんの元カレじゃないっつーの。
無理矢理、重ねないでほしいよ。

店を出たあと、どんなに追い払ってもまとわりつかれて、仕方なく一緒に行くことになった。
ああ、イヤだ……イヤな予感しかしない。

それでも待ち合わせの場所はどんどん近づいてくる。

「椎凪!」

耀くんの呼ぶ声がする。

「耀くん!!」

ルイさんがいることも一瞬で頭から忘れ去って、顔が綻ぶ。
やっぱりいいなあ……耀くん会いたかった……って……え?何?

ドカン!とルイさんがオレを両手で突き飛ばし、耀くんに近づいていく。

「え?男の子?うそー本当に?やだーーーー!!超かわいい〜〜 ♪♪」

「え″っ!?」

突然の出来事に、耀くんが驚いて顔が引き攣ってる。

「きゃーーーあたしのタイプーーー!!いやぁーーうれしぃーー!!」
「え?ちっょと……」

見ればルイさんが、耀くんに抱きついて顔を近づけてる!
ギャーー!ちょっと!!なにしようとしてんだよ!

ヤバイ!!今、ルイさんは完璧に酔ってる上にキス魔だ!
オレの耀くんが襲われる!

「ルイさん!オレの耀くんになにしてんのっ!」

オレは慌てて、ルイさんと耀くんの間に割り込んだ。
ああっ!!耀くんが、あまりの出来事にフラフラ状態。
オレは耀くんの肩を抱いて、自分のほうに避難させる。

「なによぉ?オレのって?なに?あんた達付き合ってんの?」
「今は付き合ってはいないけど……いずれは……」

くそぉっ!はっきり言えないのがくやしーーっ!!

「ええ〜〜!?でも、この子男の子でしょ?なんであんたが?」
「いいの!男の子でも!」
「何言ってんのよぉ〜〜あの、“女好き” のあんたがさぁ〜〜」

ルイさんがニンマリと笑う。
あ……嫌な目つき。
それに何?そのニヤケた顔はっ!!怖いって!

「毎日違う女と遊んでたじゃないのよぉ〜〜それが?」

げっ!ちょっとなに言い出すのこの人!!なに、その誤解!いくらオレでも毎日じゃないし。

どうでもいいけど、耀くんが見てんだよっ!聞いてんだよ!!
今のところ、さっきのショックでキョトンとした顔してるけど。

「街で声かけてさぁ〜〜」
「わーわーっ!ちょっとルイさん!余計なこと言わなくていいからっ!!」
「ふ〜〜ん ♪」

ってナニ!その明らかに邪な笑顔はっ!!

「あたし、耀君のこと気に入ったからぜーったい耀君の彼女になるっ!」

はあ?
オレはまた目が点。
なにガッツポーズ決めたんだよ。
またルイさんは変なこと言い出す。

耀くんまで目が点になってるよ……さっきから変な目に遭わせてごめんね耀くん。
まったく……ルイさんってば耀くんの困った顔わかんねーのかな?

それにオレのこと、どんだけ引っ掻き回せば気が済むんだよ。
イヤガラセですか?

「いいから、元カレとヨリ戻しなよ」

何度もルイさんに繰り返してる言葉。
ルイさんには禁句なんだけど、オレはそんなこと気にしない。
ハッキリ言ってルイさんだって元カレに未練タラタラなんだから、意地はってないでヨリ戻せばいいんだ。
そしたらオレのことも、少しは絡んでこなくなんだろうと思う。

「はぁ〜〜?何か言った椎凪?」

思いっきり横目で睨まれた。
酔っ払ってるから目が据わってるし、とんでもなく不機嫌な声。


「はあ……」

まったく……まさかこんなところでライバルが現れるとは思わなかったよ。
まあ、オレとしてはルイさんなんて眼中にないけど、敵に回すと結構めんどい相手。

なんせオレの遊んでた過去を知ってるんだから。

この酒癖の悪いのが、いつ耀くんに余計なこと口走るかわかったもんじゃない。

同じ職場ってだけでも気分重いのに、これからまたどんだけ迷惑掛けられるんだ。



そんなことを思いながらガックリと肩を落とす。

本当なら耀くんと2人で、夜の街を散歩しながら歩く予定が……。

結局、オレと耀くんとルイさんの3人でルイさんを送っていくことになった。

もちろん、オレと耀くんの部屋に連れて行けというルイさんの言い分はソッコー却下した。








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