オレの愛を君にあげる…



37




 * 亨 : 椎凪の中学からの知り合い。進学塾の講師。椎凪曰く亨は『ドS』で変態!なので超苦手な人物。 *



あの日から2日後、亨とお酒を飲みながら話してる。
耀くんの過去のこと、耀くんが本当は女の子だってこと、耀くんがオレをどうして拒むのかってことも。

「だから耀くんはオレとの関係に消極的んだ」
「ふーん、なんだ結局慶彦は女の子がいんだ」
「別に耀くんが女の子だから好きなんじゃないよ。初めは男の子だと思ってたし、色んなこと知ったのは
知り合ってから大分経ってからだったし。だから耀くんの身体のことは関係ないよ」
「なんだか慶彦、ちょっと会わないうちに変わったね」
「ん?」
「だって、あの慶彦じゃないじゃないか。僕と話してるのにさ、出さなくても平気になったの?」
「え?ああ、隠すの上手くなったんだよ」
「ふーん、耀君のために?耀君には秘密なんだ?へー」

亨が面白そうにニヤッっと笑った。
そんな顔にオレは嫌な予感しかしない。

「耀くんに余計なこと言うなよっ!!」

なにかやりそうで怖いんだよ、コイツ。

「そんなに好きなの?」

タバコに火を点けながら亨が聞いてきた。

「ああ!」
「!」

即答したオレに、ちょっとビックリな顔の亨。

「そう……でも耀君は慶のこと好きじゃないんだろ?」
「耀くんもオレのこと好きだよ」
「なんでそんなことわかるの?慶の思い込みじゃないの?」
「わかるよ、オレ達はお互いがお互いのことを必要としてるから……。
オレには耀くんが必要で耀くんにはオレが必要なんだ。でも耀くんは自分のことを気にし過ぎて、
オレに気を使い過ぎて、なかなか認めようとしないけどね。
だから待ってるんだ。もうオレのこと好きになってくれてるのわかってるから。
後は耀くんが自分の気持ちに気付いてくれるのを待ってる」
「なに?ノロケ?つまんない!!慶がつまらない男になった」

人がせっかく説明してやってるのに、亨の態度は明らかに険悪だ。

「悪かったね!つまんない男で。でもそれでいいんだ、普通でいいの」

そう普通で。

「じゃないと耀くんに嫌われちゃう?」
「!!」

亨の言葉に、思わず身体がピクリと反応する。
この男は……。

「相変わらず慶彦ってバカ」

タバコの灰を灰皿に落としながら亨が呆れたように吐き捨てた。

「バカって言うなっ!」
「相変わらず自分押し殺してんだね、いいのそれで?あの時も施設の人に迷惑かけないようにって
自分だけ我慢して、今も耀君のためにって我慢してさ。それって本当に慶のこと好きってことなのかな?
逆にそこんとこを好きになってもらわなきゃいけない部分なんじゃないの?」

オレを真っ直ぐ見つめて、ハッキリと言う。
オレはなにも言い返せなかった。

「ま!慶には無理だよね?そんな勇気ないんだから。 出会ったころより酷いんだろ?あっちの慶。
ねぇ、久しぶりに見せてよ。僕はあっちの慶が好きなんだから。あっちの慶に聞きたい!
命令!出しなよ慶彦!」
「!」

亨がオレを指を差して、ジッと見つめる。
オレはその命令に逆らえず、静かに目を閉じてゆっくりと目を開けた。

「チッ、相変わらずヤな男!」

『オレ』 はワザと目を反らして嫌味を言う。
効いてないと思うけど。

「やっぱり僕は今の慶の方が好きだな」

亨はそう言って嬉しそうな顔をする。
昔からそうだった。

「で?本気なの」
「ああ、本気だ。耀くんはオレを癒してくれる。だからオレには耀くんが必要なんだ。
誰にもオレと耀くんの邪魔はさせない。お前でもだ、亨」

そう言って慶彦は僕を睨んだ。


偶然だったけど、久しぶりに慶彦に会った。
再会を露骨に嫌がる慶彦だけど、そんなこと僕は気にしない。
しかも、僕の知らない間に好きな相手ができだだって?
まったく油断も隙もあったもんじゃい。

特定の相手を作らずにいた慶彦が、これほどまでに執着をみせて独占欲を露にするなんてね。
僕を睨みつけるなんてちょっとビックリ。

知り合ったのは慶彦が13歳のときだ。
それから12年、こんなにも僕はお前を想ってるっていうのにね。
相変わらずつれないよね。
まあお前がそういうなら、今は成り行きを見守ってみようか。
これから先も、僕は慶彦と離れる気なんてないんだから。
慶彦がどこの誰と一緒にいようと僕はこれからも変わることなんてないんだから。
あの9日間。
あの日から慶彦は僕のものなんだから。

「わかったよ、本気なんだ。あーあ、すごいショック。慶が人のものになるなんて」
「そうオレは耀くんのもの……もうすぐ耀くんはオレのものになる。もうほとんどオレのものだけどね。
あともうちょっと……くすっ」

『オレ』 から本心を聞いた亨は、とりあえず納得してくれたらしい。
 まぁ、納得したフリをしてるだけかもしれないけど。
亨がそう簡単にオレを諦めるとは思えないから。
オレのどこがそんなに気に入ったんだか……腐れ縁とでもいうんだろうか?
それとはちょっと違うか?

なんとかその日はそれで話は終わって、ホッとしたのは本当のこと。


それからしばらくして、亨を交えて慎二君のところで食事会があった。
月に何度か皆で食事をするのが恒例になってるから。
耀くんが亨に会ったことを慎二君に話したらしい。
是非にって声を掛けられた。
オレは気が重かったけどね。

「初めまして、真鍋 亨です。慶彦の親代わりみたいなもんです」

堂々と親代わりって言い切ったぞ、コイツ。

「椎凪さんの親代わりですか?真鍋さんっておいくつなんですか?」
「35です」

ニッコリ笑う亨だけど、営業スマイルだろう。
塾の講師をしている亨は、 “ドSの変態” のくせに塾の生徒にも親にも受けがいい。
しかも有名進学塾のNO・1講師だっつーんだから皆騙されてるよ。

「えっ?35?見えませんよ、お若いですね」
「ありがとう」

「…………」

なんとも言えない2人の会話を横目で眺めていると、祐輔が……。

「なんだ?椎凪の初めての相手か?」
「ぶはっ!!!!」

思いっきりタバコの煙を吸い込んで噴き出した!!

「ちっ…違うからっ!!へっへへ、変なこと言わないでよっ!オレの初めての相手は女の人だからっ!」

なぜだか動揺しまくるオレ。
まったく……祐輔ってばスルドすぎっ!!

「ふーん、図星か」

祐輔がボソッと呟いた。

「そう。僕が慶彦の……「どわぁぁぁぁぁぁーーー!!余計なことは言わんでいいっ!!」

横から話に入ってきた亨を黙らせた。

「ふん、……ん?」

亨が祐輔を見て顔を変える。

「いいな、君。普通じゃないオーラ出まくってる。イジメてみたいな」

ニッコリと心底嬉しそうな笑顔だ。
本気らしい……祐輔を見つめる亨の目が恍惚としてる。

「は?」

当の祐輔は、なんのことだかわからない様子。
当然だよ、この変態が!!

「やめといたほうがいいよ、反撃くらうから」
「?」

一応亨には忠告した。
祐輔が大人しく亨の毒牙にかかるなんてありえないから。
たぶんなんの躊躇いもなく、怒りの鉄拳をお見舞いされるのが目にみえてる。


「………」
「元気ないね、耀君」
「真鍋さん……」
「僕がこの前言ったこと、気にしてるのかな?」
「そういうわけじゃ……」
「慶のことが好きだからそんなに気にするんだろ?」
「え?」
「だって本当になんとも思ってなかったら僕の言ったことなんて気にすることないじゃないか」
「………」

慶彦のことを、この子はどう思ってるんだろう?

なんとなく落ち込んだふうな様子なのがわかったけど、気にせず声をかけた。
目にみえて僕に声をかけられて、緊張してるのがわかる。
本当に慶のことが好きなのか?

「慶彦ね、本気だって」
「!!」
「ちょっと亨!また耀くんのことイジメてるんじゃないだろうな?」

これからというところで、慶彦が僕達のところに飛んできた。
まったく気分が悪い。


耀くんと亨が話してるのが目に入って、慌ててふたりに駆け寄った。

「なに言ってんの。親として公認の仲にしてあげてるんじゃないか。
それに僕、普通じゃない子って興味あるし。頭の悪い子はキライだけど」

ウソだ!絶対、本心じゃねーだろ!!
どう耀くんをイビろうかって考えてんのまるわかりだ!
でもそんな亨のセリフを聞いてふと思った。

「ん?なんかどっかで聞いたセリフ?」



「だって僕、“バカな子” と “女にだらしない子” 大嫌いだもの。ああ、普通の子に興味ないし」

慎二君がニッコリ微笑んで、ハッキリと言う。

「そんなの当然だよ!普通の子なんて興味持たないね。その上バカじゃ目も当てられないだろ。
進学塾の講師としてバカな子、更に興味なしだよっ!!」

慎二君の言葉を聞いて亨もハッキリと言い切った。
いや……一応金をとって勉強を教える身として、今の発言はどうなんだ?

「ねえ?」
「はい」

どうやら慎二君と亨のふたりの意見は一致するらしい。
オレと祐輔と耀くんは、そんなふたりを呆気にとられて見つめていた。

「オレさ……どうして慎二君に勝てないか、なんかわかった気がする」


そのあとも意気投合したふたりを眺めながら、そんなことを祐輔に呟いていた。

オレの口から重いため息が吐き出されたのは、仕方ないことだと思う。





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