オレの愛を君にあげる…



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 * 耀以外の相手との椎凪のキス・シーンあり。不快に思われる方は読まないほうがよろしいかと。 *



「瑠惟(ルイ)さん、お酒弱いんだからもうよしなよ」

フラフラと歩く瑠惟さんの後を歩きながら声をかけた。
今日は久しぶりに瑠惟さんと飲みに来た。
当然ながら、仕方なく! だ。
断ると、グダグダネチネチとウルサそうだったから。

「弱くないわよっ!! さぁ、もう一軒行くわよっ!!」

そう言って、オレの服を掴んで放さない。

「もーオレ帰るよ。オレあんま酒飲めないし、それに耀くん待ってるしさ」

そう、オレはあんまり酒は強くない。
嫌いではないけどね。
でも、耀くんがひとりで待ってるんだよ。
急につき合わされたから、夕飯の支度もしてないんだ。

「あんたのことなんか、耀君待ってないわよっ!!」

酔って真っ赤な顔でオレを指差して瑠惟さんが言い切る。

「待ってるよ! 瑠惟さんのせいで、今日の夕飯作ってあげられなかったじゃないかっ!!もー」

オレの地道な愛情表現がーーー!!

「大体さぁ! あんた見てっとムカつくのよねっ!! あたしの一番キライな男、思い出すっ!!」

はあ? なに言ってんの? この人!
酔っ払って理不尽なイチャもんつけ始めた。
もう、ホント最悪!

「だったらオレのことなんて誘わなきゃいいじゃん!」
「耀君のために決まってるでしょ!! 少しでもあんたと一緒にいる時間、減らさなくちゃねっ!!」
「…………」


くーー! 瑠惟さんは耀くんのことがお気に入り。
オレが耀くんのことを好きなの知ってて邪魔ばっかする。

「なにその理屈!! もー余計なお世話だよっ!! すっごい迷惑っ!!」

ホントにそう思った。
まったく……いつも、いつも!

「それよりあんたっ!! 今日のさぁ〜あの子供がいたなんて情報、どこから仕入れてきたの?」

瑠惟さんが言ってるのは、今扱ってる事件のことだ。

「え? ああ、一番古い友人見つけて……」
「どーせまた、あんた得意の口説き文句でも使ったんでしょ?」

言いながらオレの胸倉を掴んで自分の方に引き寄せた。

「あんた得意だもんねぇ〜〜女た誑かすの。キスぐらいしてあげたの? んん?」

酔っ払って据わった眼差しで覗き込まれた。
ホント、ウザイったらありゃしない。

「しないよっ!! 昔と違うの!」
「そーゆートコもあの男とソックリ! 愛のバーゲンセールかっつーの! 誰でもかれでも好き好きってさ!」
「オレ、耀くん以外好きなんて絶対言わない!!」

瑠惟さんの掴んだ腕を引き離しながら言い返した。

「ホント! ムカつく男っ!!」
「!!」

そう叫ぶと、いきなりオレの顔を両手で掴んでキスしてきた。

「ちょ……」
「ふんっ!!」

思いっきり舌を絡ませてくる。
いつものことだ。
酔うとキス魔になる瑠惟さんは、お酒もまわって元カレのことで変にテンションも上がって……もー。

「ん……」

今度はオレの首に腕を廻してきた。
まったく……オレは瑠惟さんのその別れた男じゃないって。

オレを見てると、元カレを思い出して余計絡みたくなるらしい。
そんなこと知るかっつーの。

何度でも言う! オレは瑠惟さんの元カレじゃないっつーのっ!!


でも、こんなはた迷惑な瑠惟さんだけど、オレは邪険にはできない。
瑠惟さんは……オレの初めての相手に似てるんだ。
性格も……チョトした仕草も。
だからって恋愛感情があるのかといえば、そんなの米粒ほどの欠片もない!
強いてあげれば、孤児だったオレにとって手のかかる姉貴みたいな気持ち……かもしれない。

本当は別れた元カレのことが忘れられなくて、会いたいくせに。
ホント、素直じゃなくて天邪鬼だ。

「んーーーーchu♪」
「もー特別だよ、瑠惟さん」

やっと唇を離した瑠惟さんにそう言った。
毎回言ってるんだけど、聞いちゃいないんだよ、この人。
自分のしたことは憶えているらしいだけど、酔っててあやふやらしい。

「んふふ〜〜♪」

オレの首に腕を廻したまま、機嫌よさそうに笑う。

「キスはあいつより椎凪の方が上手いんだよねぇ〜〜」

別に真面目にキスしたわけじゃないんだけどね。
まあ、ちょっと相手にすると満足して離れてくれるから適当にしてるだけなんだけど。

「そりゃどうも、さ! 帰ろ」

さらにキスし続けようとする瑠惟さんを適当にあしらって、どうにか帰るために夜の街を歩き出した。






「おかえり、椎凪!」
「ただいま、耀くん。ごめんね、遅くなって」

玄関で出迎えてくれた耀くんを見て、オレはホッとする。
あーやっぱ可愛いよな〜癒されるよ、耀くん。

「ごめんね、瑠惟さん連れて来ちゃって。もーベロベロでさ」

結局あのあと、自分の家には帰らないってゴネて……
挙句の果てに歩けなくなって、仕方なく連れて来たってわけ。

「仕方ないよ。大丈夫?」

オレに肩を抱き抱えられて、顔を真っ赤にして酔っぱらって眠り込んでる瑠惟さんを覗き込む。

「うわ、ホントすごい酔ってる。でもどうしようか、ソファじゃね」

う〜んと耀くんが顎に指を当てて悩んでる。
そんな姿も可愛いなぁ〜♪

「オレのベッドでいいよ。瑠惟さん連れてきたのオレだし。オレがソファで寝るから」
「え!? ダッ、ダメっ!! 椎凪のベッドはダメっ!!」
「え?」

耀くんが急に大きな声で叫ぶから、ちょっとビックリ。

「あ! オ、オレのベッドでいい……よ」
「え? でも耀くんはどうするの?」
「な、なにか考えるから……大丈夫」
「別にいいよ? オレがソファで寝て……」
「ダメ! ダメッたらダメなのっ!!」
「そ、そう?」

オレが急に大きな声で叫んだから、椎凪が不思議そうな顔をしてる。
だって……いくら瑠惟さんでもダメなんだ……。
椎凪のベッドに女の人が寝るなんて……絶対ヤダもん……ヤダ。

瑠惟さんをオレのベッドに寝かせたから、オレはソファで寝ることにした。
そしたら椎凪が……。

「い、いいよ。オレがソファで寝るから」
「なに言ってんの! 耀くんにそんなことさせられないよ! 瑠惟さん連れて来たのオレなんだし、
オレがソファで寝るからさ。耀くんはオレのベッドで寝なよ、ね?」

何度か同じやり取りの繰り返し。

「う……ん」

仕方なくオレがおれて頷いた。

「おやすみ」

毛布をかけながら椎凪がニッコリと笑って言う。

「う…ん……おやすみ……」

オレはトロトロと歩き出して……でも…でも……。

「……椎…凪」

リビングのドアの手前で振り向いて声を掛けた。

「ん?」

………スッ。

「え?」

椎凪が毛布を掴んだまま、驚いた顔をした。
オレが黙って椎凪に手を差し出したから。

「い……一緒に……」
「え?」
「一緒に……ベッドで… 寝よう…よ…」

椎凪を真っ直ぐ見れずに、目を反らしてそう言った。
それだけを言うのに心臓はバクバクの顔が真っ赤だ。

「ええっ!?」

椎凪がもの凄く驚いて、ビックリしてた。
当たり前だよね。
言った本人だってビックリしてるんだから。

なんだろう……いつもふたりきりなのに、ルイさんがいるからかな?
それともいつもと違って、椎凪の部屋にいこうとしてるからかな?

自分でもよくわからなかった。


椎凪のベッドの中、オレと椎凪はお互いきちんと上を向いて横になってる。
お互い緊張してるのがわかって、さっきからずっと黙ってる。

『すっごい……緊張する…』

ふたり共、同じことを思っていたらしい。
お互いの心臓の音まで聞えそうだった。
オレは自分から言っといて、今更ながらどうしよう……なんて思ってた。
でも普段あんなにオレに色々言ったりチョッカイ出したりしてるのに、なんで椎凪まで緊張するのかわからないけど。

「耀くん」
「ひゃっ! えっ? なっ、なに?」

突然椎凪に声をかけられて、もの凄く慌てた。

「夕飯、なに食べたの?」
「え? 夕飯? あっ…ああ…えっと、ご飯が残ってたからチャーハン作った」
「具は?」
「え? 具? んーと……卵」
「卵と?」
「えっ? 卵!」
「え!? 卵だけ?」
「うん……」

椎凪が驚いた顔をオレに向ける。

だって……オレは食べることが大好きだけど、作ることは苦手。
壊滅的に料理オンチ。
数少ないレパートリーは、インスタントラーメンとご飯に卵のチャーハン。
そのラーメンさえも時々失敗する。

「ごめんね耀くん! 明日は美味しいご飯たくさん作るからね!!」
「椎凪……」

椎凪が起き上がって、申し訳なさそうにオレに言う。

「うん、ありがと椎凪。楽しみに待ってる!」

オレはそんな椎凪の気持ちが嬉しくて、ニッコリと笑って返事をした。
それからしばらく明日のご飯の話しで盛り上がった。

「なにが食べたい? 耀くん」
「んーとね……丼モノもいいなー魚もいいしーカレーも美味しそう。
でもやっぱり中華も捨てがたいかなぁーお鍋もいいしー」

思いつくメニューは尽きない。

「じゃあさ、少しずつ色々作ろうか」
「本当? でも大変じゃない?」
「大丈夫。耀くんが喜んでくれるなら全然平気♪」
「本当? わぁー明日が楽しみー♪」
「一緒に買い物も行こうね」
「うん、オレ作るの手伝う」
「一緒に作ろうね」

それからしばらくの間、オレと椎凪は話し続けてた。
やっぱり椎凪がいると楽しいな。

ひとりでいる部屋はすごく寂しい。
椎凪と一緒に暮らす前はそれが当たり前だったのに……。



「くー 」

耀くんが話し疲れてぐっすりと眠ってる。

『ねぇ…椎凪…手…繋いで…寝てもいい?』

可愛く聞くから思わず抱きしめそうになるのを必死で堪えた。
可愛いな……耀くん。
今日は一緒に寝ようって言ってくれて嬉しかったよ。
手まで繋げたし……オレは耀くんの手を握りしめながら、可愛い寝顔をしばらく眺めていた。

いつも色々耀くんには手を出してるオレだけど、ナゼか耀くんからのアクションにはからきし弱い。
初なお子様のように緊張して、心臓までドキドキして、顔まで赤くなってるんじゃないかなんて思う。
自分でもなんでだか理由がわからないんだけど、きっと相手が耀くんだからなんだ。

オレを狂わせる唯ひとりの人……。


「おやすみ……オレの大切な耀くん」

寝てる耀くんの頭を、繋いでいない手で撫でた。
その手を頬に滑らせて、耀くんの顔をオレのほうに向かせると、耀くんの唇にキスをした。

そっと触れるだけの優しいキス。

そんなキスに癒されてオレは満足する。
そして繋いでた手を恋人繋ぎに握り直して……オレも心地いい眠りについた。





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