オレの愛を君にあげる…



閑話・椎凪過去編 01




オレは耀くんのためだけに存在するんだ……。

オレは耀くんのためだけに生まれてきたの……。

だから……オレの愛をぜんぶ耀くんにあげる。



「ハッ……あ…あ…んあっ」

ベッドサイドのテーブルの上に置かれた、ステンドグラスのスタンドが照らす薄明るい部屋の中で、
スプリングのきいたキングサイズのベッドがキシキシと揺れる。

そんなベッドの真っ白なシーツの上で、オレは部屋の主である 『叶華』(kyouka) を1時間程抱き続けてる。

背中まで伸びる黒髪が、真っ白なシーツの上で映える。

身長はオレよりも大分低い。
でも身体は申し分のないもので、オレをいつも満足させる。

歳は多分オレと変わらないくらいだろう。
落ち着いていて、仕事のせいか独特な雰囲気をかもし出してる。

不思議な女………オレはいつもそう思う。

同じ女となんて滅多にないオレが、もうこの女とは何度目だろう?
なぜか人肌恋しくなると、それがわかってるかのようにオレに誘いの電話が入る。

『あなたの肌が恋しいの……』

冗談半分のそんな誘い文句に、オレは 『いいよ』 と返事をして彼女の部屋を訪れる。

都心からちょっと離れた閑静な住宅街の一角に聳え立つ高層マンションの一室。

ある政治家絡みの殺人事件で、アリバイの確認で訪れた相手。
そっちの世界では、なかなか有名な占い師だった。

黒髪の純日本人の顔立ちなのに、どことなく違う。
上手く言えないが、そう思った。

彼女の証言でその政治家のアリバイは成立し、捜査はフリダシに戻ったが、

『騙されたと思って、この男を調べてみてくださいな』

そう教えられた男は、その政治家の学生時代の同級生だった。
学生時代の妬みから、罪をなすりつけようと今回の犯行に及んだらしい。
でも彼女のお陰で、早期の事件解決となったわけだ。

それからちょっと経って、オレの携帯に彼女から連絡があった。
どうしてわかったのか聞くと、知り合いの偉い奴に聞けば簡単なことだと初めてオレに抱かれながら彼女は言った。


「ふ……ン…ちゅっ……」

舌を絡めるキスを繰り返しながら、彼女の身体を何度となく押し上げる。
オレの身体に廻された彼女の腕と足は、オレの身体にしっかりと絡みつく。

オレに押し上げられる度に、彼女の形のいいボリュームのある胸が揺れる。
その揺れる胸を両手で揉みしだきながら、胸の先を口に含んで舌の先や舌全体で弄りまわす。

「はっ……ンアッ!ああ!………くぅ……んはっ……」

そんな動きに反応した彼女がのけ反った瞬間、力強く下から押し上げれば声にならない
喘ぎ声をあげて、呆気ないほど簡単にイッた。
それを理解しながらも、オレは彼女を攻めることをやめずさらに勢いを増して押し上げる。
彼女は頭を激しく左右に振りながら、手足はオレの身体にしがみついて、オレの動きに合わせて激しく揺れる。

「あっあっああっっ」

身体の相性は抜群にいい…そう……抜群に……な。
でも…それだけだ。



「身体は満足したけど、心は満足してないってところかしら?」

ベッドから優雅な物腰でスルリと抜け出ると、床に落ちてる浴衣を拾い上げて裸の身体に羽織る。
普段から着物を着てる彼女は、洋服より浴衣が似合う。
さっきまでのベッドでの乱れっぷりを微塵も感じさせないような態度に、割り切ってると妙に納得する。

「気にすることないんじゃない、いつものことだから」

オレはベッドに入ったまま、タバコに火を点けた。
本当に珍しい。
いつもならさっさと帰るはずなのに……。

「占ってあげましょうか?」

彼女はオレの方に戻って来ると、ベッドに腰掛けて首を傾げながら微笑んだ。

「は?」
「あなたの運命の人、知りたいでしょ?」
「いいよ……」

オレはフウーっとタバコの煙を吹いた。

「あら?なんで?」

両手をベッドに着いてオレの方に乗り出すと、肌蹴た胸元が露わになってかなり悩ましい姿だ。

「どうせそんな相手現れないから。そんな相手に巡り会うなんてありえない」
「そんなこと、占ってみないとわからないわよ」

クスクスと、ワザとオレをからかうように笑う。

「いいって、それにオレ占いなんて信じないし」
「まあ、失礼ね」
「ああ……悪い」

そういえば、彼女は占い師だった。



もうすぐ日付が変わる頃、オレは彼女の部屋から家に帰る途中だった。
流石に人気もなく、シンと静まり返る道路。
でもオレには心地いい。

今夜は満月で、闇夜じゃない。
アスファルトも周りの景色も、月明かりで青白く照らされてる。
なんとも幻想的な光景だ。
でも、あとホンの数十メートルで、そんな世界ともおさらばだ。

だって、あの曲がり角を曲がれば、繁華街が立ち並ぶ街の中に通じる路地に出るから。
こんな夜中に人…人…人………うんざりだ。
特に酔っ払いや、ガラの悪そうな奴が目立つ。
チャラチャラ軽そうな奴ばっか。
まあオレには関係ないからサッサと帰ろ。

「ん?」

歩いてるオレの腕をいきなり掴まれて足が止まる。
振り向けば、未成年と成人の境にいそうな茶髪の女。

「なに?」
「お兄さん♪ あたしと遊ばない♪」
「遊ばない。離して」
「何よぉ〜ピチピチ女子大生だよ♪ 泊まるトコないのぉ、あたしのこと好きにしていいから今晩泊めて♪」
「やだ。離して」

女子大生が泊まるところないなんておかしいだろ?
大学はどうしてるんだよ、まったく。
すぐバレるウソついて。

「サービスするし、あたし慣れてるから楽しめるよ。いいじゃん……ね?」

そう言って媚びた眼差しで見上げてくる。
もちろん身体の密着つきだ。
ああ……ウンザリする。

「間に合ってるし、赤の他人泊める気ない」
「だから赤の他人じゃなくなることしよう、って言ってるの!」

「…………」

ああ……なんでオレを放っておいてくれないかな。

「お兄さん♪」

掴んだオレの腕に、さらに自分の身体を摺り寄せてくる。
あっさりと、キレた。

「慣れ慣れしくオレに触んなガキ。離せって言ってるだろ、テメェしつこいんだよ!」

『オレ』 で思いきり殺気を込めて睨みつけ、吐き捨てた。

「!!」
「テメェみたいなガキ、相手になんかしないんだよ。オレがこれ以上キレる前に早くどっか行け」
「…………」

その場でオレの腕を離して立ち尽くす。
まったく……最初から大人しく離してくれてればお互い嫌な思いしなくてすんだのに。


ああ……折角のいい気分が台無しだ。

オレはタバコを取り出して、溜息をつきながら火を点けた。





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