オレの愛を君にあげる…



閑話・椎凪過去編 02




彼女にオレには運命の相手なんていないし、巡り会うなんて有り得ないって言ったけど、
本当はそんな相手をずっとガキの頃から探し続けてて……でも、探し出せなくて諦めたクチだ。

ずっと待ってた。
ずっと探し続けてたけど、オレの探し求める人は現れない。
だからそんな相手はいないんだと思ってる。

探し求めた人だと思ってた相手には、あっさりと否定されて拒絶された。

ガキの頃からのことだから、もう期待するのも疲れた。
もの心ついたころから空いてる、オレの胸の中の暗くて深い穴は塞がることもなく開き続け、
どんどん暗くなって深くなる。
だからあんなガキ相手でも、容赦なく罵倒を浴びせられる。


オレが愛せる相手は一体どこにいるんだろう。

あんなに色々な女の相手をしたのは、いつか偶然にオレの捜し求める相手に出会えると思ったからだ。

まあ、今までそんな相手は現れなかったけどね。


「はーー」

真っ暗な部屋の電気を点けても、明るくなったのは部屋の中だけで、オレの胸の中が明るくなることはない。

一体いつまでこんな気分が続くんだろう。
ただ意味もなく、時間だけが過ぎていく……。

誰にも必要とされてないオレ……親ですらオレは必要じゃなかった。
でもオレは、それでも生まれて来た理由を知りたい。
そんなオレが存在し続けなければいけない理由……それは一体何なんだろうな。

オレはただ、たったひとりに愛されたいだけ。

そんな相手に巡り会えたなら、オレはオレの全てをその人に捧げる。

オレの身体も心も命も……全部その人に捧げるのに……。


でも…そんな相手いるはずがない。

オレなんかに……いるわけないんだ……。




「んっ……んあっ……あっあっ……あああーーっ!!」

いつものベッドでいつも以上に彼女を攻めて攻めて、乱暴に押し上げる。
ずり上がる彼女の腰を掴んで動けないようにしながら、何度も何度も奥まで貫く。

「ふぁ……あんっ!ああ……んっく……んあっ!」

体勢を変えて後ろから彼女の身体の奥深くを攻める間、彼女はずっと両手で白いシーツを握り締めながら喘いでいた。

「はぁ……はぁ……んぁ……あぁ……あうっ!」

グッタリとした彼女の身体を抱き起こして、オレの身体を跨がせる。
オレの上で下からオレに押し上げられるたびに、女の胸と黒髪がサラサラと揺れる。

彼女が逃げないように、彼女の華奢な腰を捕まえてるオレの手を無意識に彼女が触れる。
しっとりと汗の滲んだ彼女の手のひら……。

「やっ……ああんっ!」

彼女をオレの上に乗せながら、腹筋で起き上がると彼女が大きくのけ反った。
どうやら深く彼女に入ってたオレが腹筋で起き上がったとき、彼女のイイところを攻めたらしい。

「あっ……」

のけ反る彼女の背中に腕を廻して、オレの方に引き寄せた。
スルリと自然に、オレの首に彼女の両腕が回される。
顔に掛かる黒髪を、空いてる手で退けてやる。

「んっ……はぁ……どうか…したの?今夜は……随分積極的……ね」

トロンと潤んだ瞳でオレの瞳を覗き込む。
確かに、いつもはここまで執拗に相手を求めたりしない。

「今夜で最後だから……」
「……そう……」
「転勤……」
「……そう……」

一昨日、辞令が出た。

「わかってた?占い師さん」
「さあ……どうかしら……あなた占い信じないんでしょう?」
「ああ……」

そんな会話を交わしながら、彼女の項に手を廻して強引に舌を絡めるキスをした。
彼女もそんなオレに応えるように、オレの舌に自分の舌を絡めて吐息を漏らす。

「……は……ぁ……んんっ……んっ!んんっ!!ふぁ!!」

お互い向き合ったままで、キスを交わしながらオレは彼女を攻め始めた。




「今夜で最後なんて名残惜しいわ。あなた優しいし綺麗な顔だし上手だし、相性も良かったのに」
「そんなに褒めてくれるなんて、一応礼を言った方がいいのかな?」

ズボンだけ穿いて窓際でタバコを吸う。
彼女はいつものように浴衣を軽く身体に纏わりつかせて、紐を軽く腰の部分で縛ってるだけだから
肌蹴てる胸元はもう少しで胸が見えそうでそれがまた淫らだ。

「ん……」

彼女がオレに腕を廻してキスをする。
オレは素直に、彼女のそんな行為を受け入れた。

「結局あなたは私のモノにはならなかったわね。残念だわ」
「オレは誰のモノにもならないよ。誰かに縛られるなんてご免だ」
「クスッ」
「ん?何で笑う?」

「今に運命的な出会いがあるわよ。もうすぐあなたはひとりのモノになる……」

彼女はオレの頬に手を滑らせると、指先でオレの頬を撫でていった。

「何それ?もしかしてオレのこと占ったの?」
「ええ、今までのお礼」

そう言ってクスリと笑う。

「オレのことは占わなくていいって言ったのに」
「ふふ、好奇心よ」
「じゃあそれはハズレだ。オレが誰かのモノになるなんてありえない」

そう……オレの探してる相手なんて現われるはずなんかない。

「私の占い、外したことないの知ってるわよね」
「そりゃ……ね」

彼女の評判は各方面からお墨付きだ。

「でも不思議なのよ。相手が男か女かわからないの」
「は?」

男か女かわかんないって……なんだそりゃ?

「とても不思議な心を持った人物……あなた心当たりある?」
「全く無いね!」

キッパリと言い切る。
いるか、そんな奴。

「そうよねぇ、会ってれば今ごろその人に夢中のはずだもの。私なんて抱きに来ないわ」
「もーやめやめ!!んなの、いつのことかわからないんだろ?オレ、それだけは信じないよ!」

その、なにもかもわかってるような顔はやめてほしい。

「でも、避けられないわ。ずっと昔から決まってたことみたいだから。もうすぐよ……楽しみにしてて、ふふ……」

「…………」


オレはそんな彼女の言葉に半信半疑。
いや、殆んど信じてなかった。

最後に彼女が別れ際にオレにキスをして、それが彼女との最後のキスになった。

それからどのくらい月日が経ったのか……そんな彼女の言葉も忘れてた。



25歳になったオレ。
ひとり街をふらついていると、携帯が鳴った。

「はい?……了解 ♪」

短い会話で電話を切って、携帯をズボンのポケットにしまう。

「お仕事♪ お仕事♪」

と、呟いてオレは目的の場所に歩き始めた。



夜の街に一際目立つ高級ホテル。
その大広間で事件が起こってるらしい。

広い廊下を抜けると、吹き抜けの天井に高そうなシャンデリアがいくつも光り輝いてる。

そこで起こった人質事件。
巻き込まれた女の子の彼氏に思いきり殴られて、気分直しでタバコを吸おうとホテルの廊下を歩くと
何枚もの大きな一枚ガラスで覆われた廊下に出た。
外のライトアップされた景色が、ガラスなんかないみたいに綺麗に見える。
流石一流ホテル。

そこにいたんだ……。

肩に届くくらいのちょっと動くだけでサラサラと靡(なび)くほどの柔らかそうない髪。

背は……オレより大分低い。

上下黒のパンツスーツを着て、窓ガラスにそっと手を添えて外を眺めていた。


その子を見たとき、オレは自分の時間が止まったように思えた。





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